ところが、事はそう上手くは運ばなかった。
「また事件あったんだ……今度は同じ日に2件」
翔が朝刊を広げて、記事をチェックしながら言う。
連日同じ地区で相次ぐ奇妙な事件ということで、今やこの事件は一面扱いに
なっていた。
絵麻も慣れない新聞を懸命に覗き込んで、字を追う。
「信也、疑われてるの?」
「そこまでは流石に書いてないけど、警察に目をつけられてるのは確かだな」
「信也のアリバイは?」
「2つとも深夜に起きてる事件だから、僕らが寝てる間にこっそり出て行きま
したって言われたら終りだよ」
「うーん……」
「おはよう」
その時、信也が起きてきた。
「お、おはよ!」
悪いことをしていたわけではないのに、絵麻はついつい挙動不審になってし
まう。
「?」
「すぐ朝ごはんにするね。パンとご飯どっちがいい?」
ばたばたと、絵麻は朝食の支度に戻る。
翔は再び新聞に視線を落とした。信也が横から覗き込んでくる。
「またあったのか?」
「うん。今度は同じ日に連続して2件」
「そっか……」
信也はテーブルにつくと、どこか遠い目を窓の外に向けた。
その窓の外で、室内をうかがっている人影がいた。
「傷つけ……もっと傷つけ……俺が受けた絶望を味わうまで、もっと……」
人影は暗く、そう呟いた。