「警察部に連れて行かれたですって?!」 その日の夕飯時。 絵麻の数ある名料理のひとつであるロールキャベツを頬張りながら、信也は 事もなげに話して聞かせた。 「……何されたのよ」 「昨日の夜何してたか聞かれただけだったけど」 「それ、完璧にアリバイ探してるから」 自分のことなのにいまいちわかってなさげな信也に、かえって周りのほうが おろおろしてしまう。 「で、何て言ったの?」 「昨日の夜は1人で部屋で寝てたって」 「おいおい……」 「疑われてる。絶っ対疑われてる!」 「でも、俺やってないしさ」 言って、信也は3コ目のロールキャベツを頬張った。 結構思うのだが、信也って大物の器なのかもしれない。 なんせこのクセの強いメンバーの統括役でもあるわけだし。 「やってないのは俺がいちばんわかってるんだから」 「まあ、お前がやるとは思ってねーけど」 「誰だよ、朝『特徴がまんま信也だ』って言った奴」 「日本刀なんて簡単に手に入るし、背が高い奴だって探せばいくらでもいるで しょ。その程度の証拠で呼び立てるんだから警察部も甘い仕事してるわね」 隼唯美が一言。彼女は警察部よりずっと重要な情報を使う部署に所属してい る。 「やってないんだから、疑いはすぐ晴れるでしょ」 「早く犯人がつかまるといいね」 アテネ=アルパインが心配そうにいい、夕食の場でのその話題はそこで終わっ た。 シャワーを浴びて自分の部屋に戻ろうとした廊下で、信也はばったりとリョ ウに出くわした。 「リョウ? 女性陣の部屋ならあっちだぞ」 「違う。あんたに用事。部屋、あがっていい?」 「いいけど……」 信也の部屋は階段のすぐ横にある。絵麻がいくら掃除してもひっちゃかめっ ちゃかに散らかしてしまう翔と比べて、なかなかに整頓された部屋だ。 信也は椅子に、リョウはベッドにそれぞれ腰を落ち着けた。 「タバコの匂いがする。まだ吸ってるの?」 「たまにな」 「肺の病気になるよ? あと、あんた忘れっぽいんだから火を消し忘れて火事 とか」 「……説教にきたわけ?」 リョウは首を振った。 「大丈夫?」 「え?」 「疑われて、警察部にまで引っ張っていかれて。結構堪えたんじゃないの?」 リョウの紫の瞳に覗き込まれて、はじめて信也の表情が曇った。 「話を少し聞かれただけだけどな。何でわかった?」 「家族より付き合い長いもん。顔見てればわかるよ」 「……怖いんだ」 「え?」 「俺、あの頃から物忘れ激しいじゃん? だから、ひょっとして、自分は人を 傷つけてるんだけど都合よく忘れてるだけだったりして……」 あの頃、という言葉にびくりとリョウの肩が震える。 そこで、言葉が途切れた。 リョウはそれ以上何も言わなかったし、信也も答えなかった。ただ、何も言 わなくてもいい空気がそこにあった。 時計の針が半分ほど回った頃、リョウはベッドから立ち上がった。 「元気出しなさいよ。警察動いてるんならすぐ犯人つかまるでしょ」 「ああ」