2.消せない罪 相変わらず、傷害事件は後を絶たない。 信也は任意でまたアリバイを聞かれるハメになったのだが、その日も彼のア リバイを証明する手立てはなかった。 しかも、その日はもっと悪い事が起こった。 「あ……れ?」 最初に異変に気づいたのは、マガジンラックを整理していた絵麻だった。 入っていた雑誌に、みんな刃物で切りつけたような傷と、赤い染みがあった のだ。 「へんなの……まさか試し切りってわけじゃないだろうし。ねえ?」 絵麻はリビングでぽつんと座っていたリリィ=アイルランドに話を振ったの だが、彼女は珍しく悲しげな表情をしていた。 「……リリィ?」 彼女は声が出せない。返答の代わりに、リリィは絵麻の袖をひいた。 「?」 そのまま2階の、リリィの自室にあがる。 リリィの部屋は絵麻の部屋の向かいにある。通されて、絵麻は息を飲んだ。 「これって……!」 ベッドの上に広げられた、淡い紫色のショール。 そのショールが、刃物とおぼしき物でめちゃくちゃに切り刻まれていた。 「酷い。これ、どうしたの?!」 リリィはわからないと首を振る。 淡い紫の生地も、刺繍で使った糸も、みんなこの前中央首都に行った時に買っ たものだ。 その時、絵麻はあることに気づいた。 生地にべったりと赤い染みがついているのだ。リリィが買ってきたのは無地 の生地だったから、こんなのはなかったはずだ。 「何でこんな……」 その時、別の部屋から怒声が聞こえた。 「おいっ!」 「?!」 慌てて部屋を飛び出す。反対側の廊下で、シエルが信也に詰め寄っていた。 リョウが一生懸命仲裁しようとしている。 「どうしたの?」 「どうしたもこうしたも……」 シエルは手にしていた、小さなノートを示す。 絵麻はそれに見覚えがあった。シエルが妹のアテネのために貯金している通 帳だ。 しかし、前に見た時と違って、通帳にはやはり刃物の傷と赤い染みがついて いた。 「これ、血のついた刃物で切ったんだろ」 「血?!」 先ほどから気になっていた赤い染みは、どうやら血だったようだ。 「でも、それだけで信也怒鳴るのは……」 「寮に自由に出入りできて、血のついた刃物持ち歩けるのは信也だけだろ?!」 「……違う」 「違うって言うんなら証拠見せろよ」 「ここんとこ、日本刀は手入れしたまま使ってないはずだから、血はついてな いはずだ……」 「じゃあ、それが証拠じゃない」 信也は腰にさしていた日本刀を取ると、鞘から引き抜いた。 が、彼の言葉とは裏腹に、その刃には大量の血痕がついていて、廊下に滴っ た。 「!」 誰もが驚く中、いちばん驚いたのは他でもない信也だった。 「なん……で……」