【転章】
北部、オリンポス半島。
暗闇の中で、ダーティ・ブロンドの美女が3つの黒水晶を前に、念をこめて
いた。
彼女の胸元には赤い石のペンダントが下げられていて、呪文が続くごとに石
は赤い輝きを増して行く。
「還れ、我が下僕! 闇創造!!」
呪文と同時に、辺りに満ちていた闇が音を立てて渦巻く。
闇はパンドラの長い髪を、薄物の衣服を激しくなびかせていたのだが、やが
て3つの塊へと姿を変えはじめた。
「フフ」
パンドラは妖艶に微笑むと、変化を待った。
塊から手が伸び、足が伸び……それは人の形になった。
額に黒水晶をいただいた、3人の黒衣の下僕たち。
「アレクト、メガイラ、ティシポネ」
パンドラは彼らのしもべの名前を呼んだ。
「パンドラ様」
「申し訳ありません」
アレクトが、メガイラがすぐさま膝をつく。
「姫ー。ティッシー怖かったよぅ!」
ティシポネは変わらないきーきー声で両手を振り回した。
パンドラは妖艶な微笑みを崩さないまま。
「どうしてお前たちを復活させたか、わかる? 役立たずだったお前たちを」
「はっ」
3人はひたすら頭を下げるのみだ。
「条件がそろってしまったの」
パンドラの表情から微笑みが消え、憎悪に変わる。
「条件……」
「運命の輪が回り始めるわ」
それは、遠い昔から定められていた出来事。
「『平和姫』『不和姫』『守護者』……全てのコマがでそろった」
パンドラは優雅な仕草で、指折り数えて。
「そして、私は全てを破壊する」
彼女は折った指を破裂を現すように勢いよく開くと、怪しく微笑んだ。
「今度こそ、物語を完結させましょう。お前たち、協力するわね?」
「御意」
「『不和姫』の御心のままに」
3人は深く頭を垂れた。