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 その頃、リリィはシスターとミオと一緒に子供服の点検をしていた。
 声の出せないリリィは、あらかじめ言いたいことがある場合はその事を書く
ようにしている。今日も、どんな子供服が何枚あるか、どの布が余ったかなど
を事前に書いておいた。
「ありがとう。リリィに頼むと早くて正確で助かるわ」
 リリィは微笑んで首を振る。
 声が出せないのだ。その自分を信用してくれる人達に、全力で報いたい。
「これが手縫いだなんて凄いわね」
 ミオはしきりに感心している。
「リリィは凄いのよ。ミオ、貴方も少し習ってみたら?」
 その時、メアリーが部屋に入って来た。
 手には絵麻から差し入れられたクッキーの袋がある。
「シスター。ミオ姉さん。リリィ。絵麻がクッキーくれたからおやつの時間に
しましょう?
 子供たちがうるさくって」
「あら。絵麻も来てたのね」
 リリィがメモ帳に『手伝う』と書くと、メアリーは無邪気に喜んでくれた。 
「ホント? 助かる助かる。ありがとっ」
 2人は連れ立ってシスターの部屋を出る。
「私たちも行きましょうか、ミオ」
 シスターが車椅子を操って、部屋を出ようとすると。
「……パット先生」
 ミオが琥珀の瞳に悲しみをたたえて、シスターを見つめていた。
「ミオ? どうしたの?」
「貴方さえも、もうわたしの本当の名前を呼んでくれないのですか……?」
 悲しい瞳。
 シスターも、哀しげな目になって。
「そうね。ここには私たち2人しかいないものね」
 車椅子を動かすと、そっとミオの頬に触れた。
「ごめんなさい……伊織」
 ミオは僅かに微笑んで、頷いた。
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