【転章】 「ねえ、お祖母ちゃん」 幼い絵麻は、縁側で洗濯物をたたんでいる祖母、舞由の膝に甘えていた。 「おはなし、して?」 おかっぱにした黒髪が、秋の涼風にさらさら揺れる。 絵麻はきらきらと澄んだ茶色の目を輝かせて、舞由に話をねだった。 「ふふ。絵麻ちゃんは甘えん坊さんだね。でも、ちょっとだけ待ってね」 せがまれたほうの舞由はくすくす笑うと、膝の上の孫娘の髪を撫ぜ、洗濯物 たたみに戻った。 「むー……」 すぐに話をしてもらえなかった絵麻はむくれて祖母の膝の上でごろごろして いたのだが、飽きたのかやがて寝入ってしまった。 「絵麻ちゃん? 終わったよ? 何のお話がいい?」 「ふにゃ……おひめさま、でてくるおはなし……」 「そうねえ……」 寝ぼけ眼の孫娘の額を、祖母は優しく撫ぜて。 「それじゃ、平和姫 と不和姫 のお話をしましょうか」 どこか懐かしむような瞳で、そう告げた。 「……ぴーしーず?」 「そう。平和姫」 舞由はそう言って、語り出した。 「むかしむかし、あるところに……」
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