1.生きている不思議
「ねえ、お祖母ちゃん」
幼い女の子が、縁側で洗濯物をたたんでいる祖母に話しかける。
「おはなし、して?」
黒髪をおかっぱにした女の子だ。
きらきらと澄んだ茶色の目を輝かせて、祖母に話をねだる。
「ちょっと待って頂戴」
せがまれた祖母は洗濯物をたたみおえると、それをわきにどけて、縁側から
女の子を 抱き上げた。
「はい。これでいい。何のおはなしをしましょうか?」
「えーっとね、おひめさまのでてくるおはなし」
「そうねえ。シンデレラの話にしましょうか? それとも白雪姫がいい?」
「どっちも前にきいたよぉ」
祖母は思案顔になったあとで、ぽんと手をうって。
「それじゃ、いばら姫のおはなしをしましょう」
祖母はきっちりと正座し、その膝に女の子がことんとよりかかる。
「昔々ある国の王様とお妃様の間に、玉のようなお姫さまが生まれました……」
季節は冬にさしかかるころ。
秋が残してくれた、最後のひだまりで。
深川絵麻は祖母、舞由の話してくれる物語を聞いていた。
もっとも、やわらかい匂いのする祖母の膝に甘えることが目的だったから。
絵麻はその話の内容を、今ではそんなに詳しく覚えていなかったりする。