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2.迷い路

『どうしてわたしはここにいるの?!』
 絵麻がそう叫んだのは、3日前のこと。
 あの後、叫び声を聞いた翔と信也とリョウとが部屋に駆けつけ、脅えて泣き
じゃくる絵麻と困惑した表情のリリィから話をきいた。
 絵麻は夢を見たのだといった。
 自分が殺された時の夢を見たのだと。
 翔が状況を詳しく聞き出そうとしていたが、絵麻は肩を震わせるばかりでそ
れ以上は何も話そうとしなかった。
 リョウはもう一度眠るようにすすめたのだが、それも拒否した。眠るとまた
夢をみてしまいそうだと。
『そんなに怖い夢なの?』
 そうきいたリョウに、絵麻はひとつだけ頷いて。
『リョウは、考えたことがある?』
『え?』
『死んだ後のこと』
『死んだ後?』
 絵麻は涙でいっぱいになった目で問いかけて来た。
『わたしは、あの時死んだんだよ』
『……』
『なのに、どうしてここにいるの? どうしてここで普通にしているの?
 わたしは幽霊なの? ゾンビなの? それとも死んだ後は皆こうなるの?』
『絵麻……』
『リョウはお医者さんでしょ? だったら、少しはわかるよね?!』
 すがるような瞳。
 助からない病気であることを告げられる患者のような目から、リョウは目を
そらせない。
『教えて? わたし、どうなってるの?! どうしてわたしは生きてるの?!』

 ――ドウシテ、私ハイキテルノ?!

 悲鳴に近い声に、リョウの心臓がどくりと波打つ。翔は顔色をなくしていた。
『絵麻』
『こんなの嫌ぁっ!! まるでわたしがわたしじゃないみたいだよ!!』
 叫んで布団につっぷしてしまった絵麻に、4人はそれ以上声をかけることが
できなかった。
 痛々しい姿と、思い出したあの日の面影にリョウは肩を震わせる。
 その肩を、信也がそっと押さえて。
『そっとしておいてやろう』
 ドアの方へと3人を促す。
『けど……』
『休むのがいちばんだって言ったのはお前だろ? リョウ先生』
『うん』
 ドアから廊下にでた時、絵麻は青ざめた顔をあげて自分たちをみていた。
 どこか不安そうな、おびえきったまなざしで。
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