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『えっと……絵麻ちゃん?』
「アテネちゃん、今度はわたしたちと一緒に来てくれるよね?」
『行く……』
  アテネの声は完全に泣き声だ。
『お兄ちゃんのところに行く』
「ちょっと貸して」
  言って、翔が絵麻から受信機を回してもらう。
「もしもし。アテネさんですか?」
『はい……どなたですか?』
「翔といいます。シエルの仕事仲間」
『お兄ちゃんの?』
「そう。明日の夜シエルたちを君の家にいかせるから、荷物を準備して待って
いてくれるかな?
  それと、その屋敷の隠し部屋のことなんだけど、確か詳しいんだよね?」
『隠し部屋……』
  アテネは頭を落ち着けるように、何度か深呼吸した。
『お義父さまの宝物の部屋のことですか?』
「そう。シエルたちに会った時、そこまで行く方法をざっとでいいから教えて
やってくれる?」
『ひょっとして……お兄ちゃんたちは、ドロボーしにきたの?』
「そうともいえるし……違うともいえるかな」
『お兄ちゃん、ドロボーなの?!』
  アテネの驚いた声に、受信機の向こう側からシエルが「違う!」と叫ぶ。
「その辺の説明も、こっちに来たら全部するから」
『わかった』
「それじゃ、明日の夕方までに荷造りを済ませて。大きなぬいぐるみとかはダ
メだよ。当面いるものだけにして。それから、この通信機は絶対わからないと
ころに隠して、後で持ってきて。あと、そわそわしたりして、屋敷の人に変だ
と思われないようにして。これが一番大事。わかった?」
『うん。わかったよ。もう1度お兄ちゃんにかわってもらえる?』
「わかった」
  翔は受信機をシエルに渡した。
「アテネ、どうした?」
『あのね、アテネ、今でもお兄ちゃんが作ってくれたプレート大事に持ってる
んだよ』
「プレート……ああ、ひょっとしてあの木の?」
『うん』
  アテネの声が初めて、嬉しそうに弾む。
『それから、あのお庭に来てくれる?  アテネ用のお庭。花が咲いてる。
  あそこは午前中に庭師の人が入るだけで、夜は誰もいないから』
「ああ、わかったよ」
『楽しみだな。明日の夜には会えるんだよね?  アテネ、今夜は眠れないかも
しれない』
「ちゃんと寝とけよ。不審がられたら元も子もないんだから」
『うん。わかったよ』
「じゃ、明日の夜に迎えに行くから」
『絶対よ!  信じてるからね、お兄ちゃん』
「わかった」
  シエルは力強く言うと、通信を切った。
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