どんなに空気が緊迫したって、そんな事情はお構いなしに武装集団は攻撃を
仕掛けてくる。
「避難してください! ここは戦場になります。急いで避難して下さい!」
絵麻は逃げ惑う町の人々を懸命に誘導していた。
武装集団の起こした作戦が大規模だったために哉人の張った情報網にひっか
かり、事前対策を打てたのである。
バーミリオンのような悲劇を繰り返したくない。
絵麻はリリィと一緒に、住民に避難を呼びかけ、誘導していた。
声が出せないという事情は、時に致命傷となる。だから翔は絵麻とリリィを
組にし、後方の、住民避難のほうに下げたのだ。
そして、本人たちは向かってくる武装集団のほうに対峙していた。
「いい? いつもと同じで、シエルと哉人で切り込んで。散開したところを各
自でしとめる。わかった?」
「了解」
「わかった」
「封隼も、目の前の敵は討ち取ってよ」
「……わかってる」
彼はいつもより高揚した調子で言った。
漆黒の瞳が、水を得た魚のように躍動感を増す。
(……この人は?!)
翔が声に出す直前に、黒い軍勢がやってくる。
「来たぞ!」
信也の声がして……。
ヒュッ!!
空気のうなる音がして、先頭の集団が血にまみれる。
「疾強風!」
シエルの能力は『風』。風圧の刃が、武装兵を切り捨てたのである。
同時に哉人のワイヤーが動き、後発の武装兵をいっきに切りさばく。
途端に黒い軍勢が乱れた。
「よし、散開した。青雷撃!」
「火炎弾!!」
雷撃が、炎が確実に敵をしとめて行く。
「行くわよ! 最近イライラしてんだからっ!!」
唯美が構えを取り、意識を集中する。
手にした水晶から波動が発せられ、彼女は一気に能力を解放した。
「空束縛!!」
「!!」
途端に空気が凍りついたようになって、武装兵たちを束縛する。
そのまま、唯美は技を続けて繰り出した。
「空切刃!!」
次の瞬間、空間が切断された。
唯美が操るのは『空間』。この場所全てが彼女の意のままに動く刃となる。
束縛されていた武装兵たちが肉塊となって崩れた。
「げっ……」
その場にいた全員が一瞬目をそむけたほど、凄惨な光景である。
「唯美、凄すぎ……」
シエルが技を使う手を止めて、その光景に見入る。
「ぼーっとしてるな! 来るぞ!!」
「嘘だろっ!」
武装兵全員が刃の餌食となったわけではない。
後発していた武装兵の中には、惨劇を避けた連中もいたのだ。
戦場で油断したシエルの敗北というべきか。
「覚悟しろ!!」
殴打系統の武器を持った武装兵がシエルに殴りかかる。
「疾強……」
技を使いかけるのだが、間に合わない。
(ヤバい……絶対くらう!!)
ガシィ!!
人間の体と武器とが派手にぶつかり合う音がする。
「ってて……ってあれ?」
シエルは思わず左手で右肩を押さえたのだが、痛みはまるでなかった。
「?」
自分のすぐ前に、誰かの黒い腕がある。
その腕が武器を受け止めて……というか、シエルの代わりに殴られていたの
だ。
「バカが」
その手は、封隼のものだった。
「お前……?」
自分の腕に食い込んだ、かなりの重量のある棍をもろともせずに奪い取ると、
その相手に突き返す。
「ぐあっ!!」
血と脳しょうとをぶちまいて、武装兵は息絶えた。
その血を浴びて、封隼は口元に小さく笑いをつくる。
「終わらせてやるよ」
浮かんだ笑みが顔いっぱいに広がる。
彼は何げない仕草で、隣にいた武装兵と視線を合わせた。
その瞬間。
「ぎゃああああ!!」
武装兵の体がずたずたに引き裂かれる。
血と肉の塊になって……その場にぼとぼとと崩れ落ちる。
「え……」
敵も味方もその凄惨な光景に気を奪われた一瞬のうちに、封隼は自分の正面
にいた武装兵の胸に拳を突き立てていた。
その拳が正確に心臓をえぐり出す。
楽しげな、何かから解放されたかのような笑みが広がっていく。
そのまま、彼は自分の回りにいた武装兵全てを血まみれの骸に変えて行った。
黒衣を血で赤く染め、無表情だった顔に笑みを浮かべて。
いつもの無表情が信じられないほど、彼はいきいきとしていた。
殺戮を楽しむかのように。
「……」
やがて、自分を遠巻きに見つめる視線に気づいたのか、封隼は笑うのを止め
た。
表情がいつもの無表情へと変わる。
「……どうした?」
「いや、その……」
「早く町に言って疎開令を解除しないと、手際の悪さを指摘されるぞ」
「わかった」
みんなが動き出すなかで、唯美だけが憎むような目を止めなかった。