「……!」
「『不和姫』復活の贄となってもらおうか」
赤毛の兵士……アレクトが言う。
「そっちの娘のようにな」
「……殺すってこと?」
「ただ殺すんじゃないんですよ」
もう1人のフードの人物……メガイラが微笑む。
「血をたくさん流してもらわないと困るんです。使えるものは使えってところ
でしょうか」
その物言いがどこか姉の結女に似ていて、絵麻はぞくりとした。
(この人達……?)
疑念を抱くと同時に、絵麻はふと思い当たった。
こいつらが殺したのだ。
平穏な生活を手に入れたはずのカノンを。愛らしい小さなレノンを。
絵麻の目の中に、はっきりとした怒りが灯った。
「あんたたちがこの町を壊したの? カノンを……殺したの?」
「おや。ずいぶんとはっきりした子だな」
アレクトが鎌の先端で絵麻の首筋をつつく。
「大抵コレを突き付けられたらびびるもんなのに」
「あんたたちが……あんたたちがカノンを……」
石を握る手にぎゅっと力がこもる。
その拳が虹色の輝きを放った。
「……!」
反応したのはメガイラのほうが先だった。
「アレクト、その子の容姿を教えて」
「メガイラ?」
「早く!」
「えっと、中央人だな。真っすぐの黒い髪に茶色い目。15、6歳ってとこ……」
言ったアレクトの表情も変わる。
「まさか……」
「『石』を持っていません? 青い石を」
「持ってるよ……」
「……?」
2人の視線が絵麻の握っている石に集中する。
そして、絵麻の首にかかっていた鎌がはずされた。
「アンタ『平和姫』だね?」
「平和姫?」
ピーシーズ。
昔話に出てくる、平和の守り手の名前。
それが、自分と何の関係が?
こんな場所でおとぎ話をする相手に、絵麻は不快感をあらわにした。
「何それ? わたしは何も知らない。わたしはそんなんじゃない!!」
「何も知らないのですか?」
メガイラが不思議そうに言う。
「では……知る前に死んでいただきましょうか」
メガイラの手に握られた長針が、先端を炎影に反射させた。
(殺される……!!)
絵麻はぎゅっと目を閉じた。
しかし、絵麻の体を針が射貫くことはなかった。
ピシャン!!
閉じた瞼の裏に焼き付いた、青白の光。
「うわっ!!」
アレクトとメガイラが後方に避難する。
雷撃が、彼女らが今までいた場所を打ちすえたのだ。
「絵麻!」
次の瞬間、絵麻は強い力で肩をひっぱられた。
「翔?!」
「『飛び出さないで』って、かなり念を押したよね?」
「ごめんなさい……」
「反省は後」
翔は絵麻をかばうようにして、翔は2人の武装兵に向き直った。
「額に黒水晶……0階級か」
「そっちは『NONET』だっけ? パワーストーン使いの集団」
アレクトが自分の身の丈ほどもありそうな大鎌を構える。
「パンドラ様が目の敵にしてる奴らだよ。殺せばさぞお喜びだろう」
「弓兵はもうとっくに散開、投降してるよ? そっちはどうする?」
「下級兵はただのコマですからね。わたくし達に関係はありません」
メガイラは言うと、鋭い振りで手にしていた長針を翔に投げかけた。
「電磁壁!」
空中に出現した電子の壁が、長針を弾き返す。
間をおかずに、翔は雷撃を放っていた。
その衝撃をもろともせず、アレクトは大鎌で雷撃を弾き飛ばす。
「効かないよ!」
「ちっ……」
「2対1ですね」
メガイラがあの冷徹な声を響かせる。
「貴方には不利です。どうしますか?」
「僕は『作られた命』だからね。戦うまでだ」
翔は絵麻を振り返ると、小さく言った。
「早くここから逃げて」
「え?」
「はっきりいって不利だ。後ろに下がれば信也たちがいる。早く!」
「わかった」
彼にしては珍しい、有無を言わせない口調に絵麻は頷いた。
そのまま後退しようとした途端……目の前に青光りする大鎌があった。
「させないよ。アンタさえ死ねばいいんだから!」
「やっ……」
絵麻は身をすくめる。