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「?」
  見ると、正午の陽光を髪に反射させたリリィが立っている。
「リリィ」
「あれ?  PC昼休みになったの?」
  カノンの声に、リリィはこくんと頷いた。
  リリィは絵麻がこうしてここに来るようになってから、よく様子を見に来て
くれていた。
『何の話をしていたの?』
  リリィがカウンターにメモ帳を広げ、文字を書き綴る。
  これが3人の会話のパターンだ。
「あのね、今日カノンがあがったら遊べないかな、って」
『今日早く上がれるの?』
「うん。孤児院のほうの手伝い頼まれてるから」
『それじゃ、ムリを言っちゃいけないよ』
「……そうだね」
「あたしはいいんだよ?  少しくらいなら」
『でも、カノンは』
  そこまで綴って、リリィは唇の端に軽い微笑を浮かべた。
  碧と緑。2人の視線が交ざる。
「わーーーっ!  ちょっと待って、リリィ!!」
「?」
  カノンは赤面し、メモ帳を両手で隠そうとした。
  が、それより一瞬早くリリィは文字を綴り終え、絵麻に投げてよこす。
  走り書きされた読みにくい文字を少しかけて判別した絵麻は、すっとんきょ
うな声をあげた。
「……彼氏とデート?!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
  カノンは恨みがましくリリィを見ている。
  リリィの方は涼しい笑顔だ。
「え?  え?  カノン、彼氏がいるの?!」
  絵麻の頬もいつのまにか紅潮している。
  今までの16年間、色恋ざたにはとんと縁のなかった絵麻である。当然、興味
しんしんの年頃だ。
「え……うん……まあ……」
「誰々?  わたしの知ってる人?」
「絵麻は知らないと思うけど」
「カッコイイ?  どんな人?  いつから付き合ってるの?」
「その……なんというか……婚約者」
「婚約者?!」
  絵麻はすっとんきょうな声をあげた。
  繰り返すが、カノンは絵麻と同じ16歳である。
  それで、もう婚約者が?!
  改めて絵麻はガイアの特殊性を思い知った。
『カノン、彼と会うんでしょ?  邪魔しちゃ悪いわよ』
「別にいいよ。シオンとはいつでも会えるしさ」
  カノンはもうヤケとばかりに、さばさばと言い切った。
「絵麻、もしヒマだったら孤児院にこない?  シスターに紹介するよ」
「え?」
「絵麻はここで暮らすんでしょ?  人脈広げといた方がいいと思うよ」
「うん」
「じゃ、4時に孤児院の前で待ってるね。場所わかる?」
『私が連れて行くよ』
「OK。じゃ絵麻、待ってるからね」
  そこまで言ったとき、PCの昼休みで昼食の調達に来たのか、若い女性の数
人組が店に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
  すぐに営業体制に戻るカノン。
  絵麻とリリィは目を見合わせ、邪魔にならないようにそっと店を辞したのだっ
た。
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