カノンに言わせると、絵麻はかなりのお嬢様だという。 そして、そのわりには『所帯じみている』のだと。 『だって、貴族のお嬢様なら、家事はみーんなメイドがやってくれるってもん でしょ? 絵麻って掃除洗濯全部できるじゃない』 そのやり方が尋常ではない。 なんせ、7人(自分を入れて8人)分をさばいているのである。 カノンはもともとリリィと知り合いで、絵麻がくる前の第8寮に入ったこと があるのだという。 そして、彼女が出した結論。 『なんでこんなに片付いてるの? 別の場所みたい』 前は昼ご飯の洗い物が流しに積んであったり、誰かがだしっぱなしにした物 がテーブルを散らかしていたりというのがざらにあったらしいのだ。 今は絵麻が手当たり次第に片付けてしまうので、そんなことはないのだが。 「今日はヒマなの?」 紙袋を抱えてから、絵麻はカノンに聞いてみた。 「そうだね。今日はお客さん少ないかな。この曜日はだいたいそうだけど」 「それじゃ、遊べる?」 絵麻は最近、カノンやリリィとよく遊ぶようになっていた。 2人の仕事が終わり、絵麻も夕ごはんの支度を済ませていることが条件だ。 遊ぶと言ってもカノンに仲立ちしてもらって3人で話すだけだが、絵麻には それで充分楽しかった。 そのおかげでここ最近は心がリラックスして、比較的楽しく過ごせている。 前までの日々が嘘だったかのように。 最も、パワーストーンの暴発ぶりは相変わらずだが。 「この分だと早くあがれそうなんだけど……でも、今日はムリ」 「そうなの?」 「ごめんね。今日は早いうちに孤児院の手伝いをして欲しいって、頼まれてる の」 「孤児院の?」 「うん」 カノンは前に自分で言っていた通り、故郷を武装集団に襲撃されている。 鉱山とその周辺施設の破壊のみに終わったのだが、鉱山の町で山を壊されて しまうのは死活問題である。 住民は一時的に疎開を強いられることになり、カノンも幼い弟を連れてPC 本部のあるエヴァーピースに身を寄せた。 カノンは昼間はPCに併設されている戦災孤児院に弟を預けて雑貨屋のレジ の仕事をし、夜は孤児院の仕事を手伝っているのだという。 絵麻と同じ年なのに、苦労人なのだ。 「そっか」 絵麻は少しうつむいて、それから続けた。 「少しだけでもダメかな? 少しだけ」 「それじゃね……」 その時だった。 戸口を開ける音がして、金色の光が入り込んだ。