「こんにちは」 食器を洗い終え、掃除も終わった正午近くの時間。 絵麻は来なれた雑貨屋のドアをあけた。 「いらっしゃい」 レジには豊かな金髪を三つ編みにしたカノンの姿がある。 「今日は何にするの?」 「白身魚をホイル焼きにしようと思って。だから野菜と調味料がいるの」 「なんで魚なのに野菜がいるの?」 「野菜も細かく切って一緒に入れるんだよ。栄養バランス考えなきゃ。野菜は 熱すると縮むから摂取しやすくなるし」 「さすがは家事の達人ねー」 「そう?」 絵麻はレジカウンターを抜けると、目当ての材料を取りに向かった。 カノンに教えてもらって1人で買い物をするようになって、そろそろ10日ほ どになる。 その間に、絵麻の語学力は少しずつだが、確実に上達していた。 絵麻の努力と、翔たちが根気よく教えてくれた成果がやっと現れて来たのだ。 今は単語ならほぼ確実に和訳できる。文章になるとあやふやなのは変わらな いが。 買い物のほうもカノンの教えが実を結び、かなり上達していた。 「はい。今日のお買い物」 「にんじん4本たまねぎ6コチーズ1箱……15エオーと30フェオね」 「15だから……これとこれ?」 絵麻は形の違う銀貨を2枚、カウンターに置いた。 「そうそう」 「で、30フェオはこのお札だっけ?」 絵麻が出したのは、僅かに黒みがかった紙幣だった。 「残念。これ30エオー札よ。1ケタ多い」 「あれ?」 「ま、くれるっていうんならありがたくもらうけどね。儲け儲け」 「カノン!」 「冗談よ」 カノンはけらけら笑いながらレジを叩くと、絵麻が今度はちゃんと差し出し た30フェオ札をコインと一緒にしまいこんだ。 カノンはとても陽気な女の子だ。 好奇心旺盛で、いつも楽しそうに笑っている。けれども一度レジに立てばしっ かりと仕事をこなし、臨時雇いとはいえ店主からはかなりの信頼を寄せられて いる。 それは絵麻が自由にカノンと話し、店内を歩き回っていることからも容易に 想像できた。 これで絵麻と同じ16歳だというから驚きだ。