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  絵麻は洗濯と頼まれていた部屋の掃除を終えると、外出の支度をした。
  部屋の掃除は比較的簡単で、床を掃いたりベッドのうわがけを直したりといっ
た程度だ。
  うかつに部屋の物を動かすと大目玉をくうのは姉の経験で痛いほどわかって
いるので、部屋のものには極力さわらない。さわる時には了解を得てからにし
ている。
  そんな謙虚な姿勢の賜物か、絵麻に掃除を任せてくれるメンバーは多い。
  洗濯は脱衣所においてもらって、いっせいに洗濯機にかけてしまっている。
 さすがに下着だけは各自でやってもらっているが他の物は全部絵麻が洗って
干してたたんで……と一手にしょいこんでいた。
「そういえば、どこで汚してくるんだろう?」
  特徴的な赤いセパレートを干しながら、絵麻はふと疑問に思った。
  唯美、シエル、哉人といった面々の上着が、たまに妙に汚れている時がある
のだ。
  だいたい泥汚れで。指のあとがついている事がある。
  外仕事をしているのかと聞いたことがあるが、答えは3人ともNOだった。
「3人そろって転んでる……なわけないか」
  夕飯の下ごしらえはすでに済んでいる。後はオーブンで焼くだけ。
  絵麻は自分に与えられた部屋で手早く身支度を調えると、第8寮を出て孤児
院へと向かった。
  孤児院は第8寮とPCをつなぐ道にある。どちらかというと第8寮寄りの少
しひっこんだ位置にあるのだとリリィは教えてくれた。
『大きなトチの木があるでしょ?  そこを曲がって。そうしたら教会が見える
から』
  リリィはそうメモ帳に書き、付け加えた。
『トチの木の下で待っててね』
  絵麻はそのメモ帳を持って、例のトチの木の下に来ていた。
「えっと……これがトチの木だよね」
  そこには緑の葉をしげらせた大きな木が、道と道を分けるようにしてそびえ
たっている。
  絵麻はもちろん、大柄な翔や信也がのぼっても折れそうにないのではないか。
そのくらい見事な枝振りの大木だ。
  ちらちら光る夕刻の木漏れ日を顔に受けながら、絵麻はしばらく体を包み込
む優しい緑の気配に身をゆだねていた。
  と、ふいに人の気配がして、絵麻は目を開けた。
  純金の髪持つ少女がそこに立っている。
「リリィ」
「・・・・」
  走って来たらしい。肩があがっている。
「急いで来たの?」
「・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・」
「そんなに急がなくてもいいのに」
「・・、・・・・・・・・・・・・・?」
  言葉は、相変わらず通じなかったけど。
  絵麻は何となく、リリィのいいたいことがわかるようになってきていた。
「行こう?  カノンが待ってる。どっちにいけばいいの?」
  リリィは視線でそっと方向を示した。
  そして、2人は市街地から離れた方向へ続く小道を並んで歩きだした。
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