シスターはリリィのメモ帳を指して言った。 「カノン。リリィがまた手伝ってくれるそうよ。よかったわね」 「あ、ホントに?!」 喜色満面で振り向いたカノンに、リリィは笑って頷いた。 「助かるわ。子供たちすぐに大きくなるんだもん」 「何を手伝うの?」 「リリィは子供たちの服の繕いや直しをしてくれているのよ」 「今さっきも助けてもらっちゃった。フォルテのスカート」 カノンが肩をすくめて笑う。 「居候のあたしよりよっぽどいい働きしてるよね」 「でも、カノン。貴方も自分の弟だけでなく、子供たちみんなの面倒を見てく れているじゃない」 「それは居候だし。当然ですよ」 「居候はお金を黙って食器棚に入れたりしないものよ」 「あれ……わかっちゃった?」 「ここでそんなことをしてくれるのはカノン、貴方くらいよ」 「あはは」 「財政難だから助かるわ。ありがとう」 シスターが静かに言った。 「……」 リリィとカノン、それにシスターは服の仕立てのことや時間などの打ち合わ せをはじめている。 何となく置いて行かれたような気がして、絵麻は黙っていた。 絵麻だって裁縫はできる。体操服のゼッケンを自分で縫うくらいなら。 けれど、それを主張して割り込むのはいけないことのように思えた。 同い年なのに、みんな頑張っている。 日本なんかよりはるかに苛酷な現実の中で自分の仕事をこなし、さらに人の ために尽力している。 凄いな……という思いがある。 かなわないな……とも思う。 でも逆に、同じことをやってみたいという気持ちもあった。 気持ちがごちゃごちゃになり、絵麻は結局、黙っていた。 自分の内面のごたごたを内面で処理するくらいは簡単なのだ。 「絵麻。黙ってるけど、大丈夫?」 カノンの声に、絵麻ははっと我に返った。 カノンも、リリィも、シスターも。みんな心配そうに自分を見ている。 「あ……」 「何か心配事?」 優しいシスターの視線に、絵麻はふっと亡き祖母を思いだし、口を滑らせた。 「あの……わたしは何もできないなって思って」 「あら、そんなこと気にすることはないのよ」 シスターが穏やかに絵麻の肩に触れる。 「貴方は貴方のできることをやればいいのよ? そしてもしも力が余ったら、 その時はその力をわけてあげればいいの。この子たちみたいに」 「……」 「そうよ」 黙っている絵麻に、カノンが明るく言った。 「絵麻は買い物できないんだから、できるようになったら手伝ってくれればい いのよ。できないことムリにされる方が迷惑な時ってあるし」 リリィも静かに頷く。 夕方の光が、2人の少女の金髪を明るく照らしている。 (わたしもこんな風になれるといいのに……) 絵麻は目を細めた。 不自由ながら、自分のできることに精一杯の優しさで応えてくれるリリィ。 両親も故郷も失った境遇ながら、明るく生きるカノン。 2人の生き方が絵麻には眩しかったのだ。