リリィがカノンの肩越しにはらはらしながら見ている。 そんな緊迫した状況に、幸いなことにカノンは気づかなかった。 「あのくらい強ければ、大切なもの全て守れると思わない?」 「・・・・」 リリィが微笑で頷く。 「絵麻も、そう思うでしょ?」 「あ……そだね……」 絵麻はひきつり笑いで話に応じた。 「でしょ? レノン、あんたも強くなるのよ」 カノンはぎゅっと弟を抱き寄せる。 「お姉ちゃん、痛い……」 「そんな弱々しいこと言ってるんじゃないの」 「今日はずいぶん賑やかなのね」 その時、3人の背後に来た人影があった。 「シスター」 カノンが腕をといて振り返る。 振り返った絵麻の目の前にいたのは、車椅子に乗り、古ぼけた長衣に身をつ つんだ白髪の女性だった。 穏やかな雰囲気が、どこか絵麻の祖母、舞由を思い出させる。 デザインは多少違うが、肌を出さない衣服は絵麻のよく知っているシスター と同じだった。特徴的なヴェールはかぶっていないが。 「あら、リリィじゃない。こんにちは」 リリィは立ち上がると一礼した。 慌てて絵麻もそれにならう。 「調子はどう?」 リリィはポケットから取り出したメモ帳に走り書きすると、シスターに差し 出した。 「そう。よかったわね」 一読して返したシスターはリリィににっこりと微笑んだ。 「貴方が絵麻さん?」 話を振られ、絵麻はどきっとして姿勢を正した。 「はい」 「私はパット=エンゲルマン。教会と孤児院の方の総責任者です」 「あ……深川絵麻です。翔やリリィやみんなにお世話になってます」 絵麻は頭を下げた。 「カノンに聞いてるわ。貴方が逆に世話してるんだって」 「え……」 顔を上げるとシスターも、カノンも笑っていた。リリィも苦笑いしている。 つられて絵麻も笑った。