絵麻もそれに続く。 リリィは絵麻の姉、結女に通じる美貌の少女だ。 金髪と黒髪、碧眼と茶色の目という違いはあったが、『美しい者の共通項』 と言うべきか、よく似ているのだ。 もっとも、似ているのはそこだけで、リリィはとても優しい性格の持ち主だ。 結女を思い出すことから側によれなかった絵麻に対して、どれだけ拒まれて も優しい態度を崩さなかった。傷ついていた絵麻を守ろうとしたのだ。 声がないぶんだけ、態度にいっそう優しさがにじみでるのかもしれない。 「・・・・・・・・?」 「あ、えっと……」 リリィはさっきやったようにメモ帳に言葉を書いてくれたが、絵麻は判読す るのにかなりの時間を要した。 リリィは声を失っている。何か精神的なものが作用しているらしい。 絵麻より1つ年上の17歳だが、PCに来るまでの記憶を断片的に失っている のだという。 『喉や声帯に回復不能の障害はない』というのが医者であるリョウの意見。 『無くした記憶に原因があるんじゃないか』というのが翔の意見。 『本人が思い出せない物は自然にまかせろ』が信也の意見と、首脳陣の意見は バラバラで当人にまかされている。 結局、リリィは僅かだが唇の動きを読むことのできる翔とペアを組むことと、 普段の会話を筆談で済ませることでコミュニケーションを成立させていた。 しかし、文字が読めない相手との意志疎通、というのは考えの範疇になかっ たらしい。普通はそうか。 絵麻がリリィと何か話そうとすれば、誰かが側にいない場合はかなり時間が かかってしまうのである。 「えっと……Kはカ行の音で……」 ポケットから翔に手伝ってもらって作った50音表? もどきを引っ張り出し て、あっちこっちと検討する。 数分後、絵麻はやっとリリィが何を言ったのか理解した。 「『これからどうする?』って?」 「・・・・」 リリィがこくこくと頷く。 「えっと……掃除はしたし、洗濯物もまだ乾いてないし、ごはんの準備には早 いし……文字の勉強しようかな」 「・・・・・・?」 「え?」 短い言葉だったが、結局絵麻はまた書いてもらい、判読して……というのに 数分費やしてしまった。 「えっと……『手伝う』って言ってくれたの?」 リリィはまた頷いた。 「ありがと……」 (もっと話したいのに話せない……) 絵麻は感謝すると同時に、思うように動けない自分に苛立ちを感じていた。