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2.異世界

 白い光が消えると、そこは森の中だった。
「あ……れ?」
 さっきは草原にいたはず……そう思って絵麻は翔の方をみつめた。
「どうしたの?」
「何があったの? ここ、さっきの場所と違うよ?」
「それはそうだよ。移動したんだから」
「移動?」
 絵麻は首をかしげた。
 彼女が記憶している限り、さっきから一歩も動いていないのである。
「言わなかった? リターンボール使うって」
「うん……聞いた。聞いたんだけど……」
「?」
「……名前だけ」
 絵麻は小さく肩をおとした。
 錯乱状態から覚めたばかりだった絵麻は、当然疑問に思っていていいそのボ 
ールの効能を聞き損じたのである。
 聞いておけば今質問せずに済んだのに……。
 聞ける時に聞いておくのは常識。そうでないと、後で相手の気分が変わって
情報をもらい損ねてしまう。いや、最悪怒られるかもしれない。
 けれど、翔は絵麻が考えていたのとは全く別の反応をした。
「これは叩きつけると、刷り込んでおいた任意の場所に戻れるんだ」
「え……歩かなくても?」
 驚きが2倍になって、絵麻は茶水晶の瞳を大きく見張った。
「そう。瞬間移動の一種だね」
「どこでもドアだ……」
「どこでもじゃないよ。精製するときに登録した場所1カ所限定。市販されて
ないから馴染みは薄いかな?」
「……」
「ここで話しててもさっきと変わらないや。入ろう?」
 翔はそう言うと、森の中に続く道を歩きだした。
「どこに行くの?」
「えっと……僕の家ってことにしとこうか」
「?」
 絵麻が聞き返そうとした時、ふいに視界が開けた。
 そこにあったのは、大きな洋館風の造りの家だった。
 白く塗った木造の壁に緑色の屋根といった組み合わせだが、それが周囲の森
にうまい具合に溶け込んでいる。
 玄関を中心に左右に広がる造りは、かなり大きなものだ。16人とかの大家族
で住んでも各人個室で部屋が余るかもしれない。
「ここに住んでるの?」
「正確にはここの一角。僕だけの家じゃないからね」
「そうだよね。こんな大きなとこなんだから、家族とかいるに決まってる」
「いや……家族じゃない」
 翔の優しかった調子が、一瞬だけふっとこわばる。
「え……?」
「仕事仲間だよ」
 翔はそれだけ言うと、玄関のドアを開けた。
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