桜の雨が降る------4部3章9
【転章】
〜ガイアの新聞記事より〜
昨日午前に開かれた国府警察の会見によると、国府警察は窃盗事件の容疑者としてコラール・マットーバー容疑者、接客業三十五歳を緊急逮捕した。
マットーバー容疑者には十二日未明に起こった第六番通りにて約五百万エオロー相当の金貨及び宝飾品が盗まれた事件をはじめ、七つの盗難事件と一つの傷害事件に関与した疑いがあり、現在国府警察によって取り調べを受けている。
マットーバー容疑者は西部出身で、取り調べに対し「俺だけじゃない」「金を渡され頼まれた」などと容疑を否認しているという。
優桜がその記事を読んだのは、食堂で客が読めるように出している新聞をラックに収めている時だった。
「……あれ?」
白黒で容疑者の写真が載せられていたが、そこに映っていたのはがりがりに痩せ、糸のように細い目をした男性だった。
優桜があの日見た騎士の素顔とは似ても似つかない。極限まで緊張していた優桜がまじまじと見つめてしまったくらいに、騎士は彫像のように端整な顔立ちと、つり合いの取れた体格の持ち主だった。
「どうして?」
優桜の中で疑問が広がっていく。騎士は義賊ではない?
では、騎士とは一体誰で、義賊とは一体何だったのか。
マットーバー容疑者こそガイアを騒がせた「義賊」であったことは、世情の混乱と類似犯の多発を防ぐという名目で発表されず、内々のうちに処理されることとなった。
ずっと後になり、注意して見なければならないほど小さな記事で、この容疑者の裁判の結果が再び新聞の紙面に掲載される。その記事によると、彼は最後まで自分の背後にいた人物の存在を主張したものの、一連の盗難事件の他に数件の余罪が浮上したこともあり、国家警察及び国立司法局に無実を認められることはなく、懲役刑の判決を受け収監されたとのことだった。
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