桜の雨が降る 2部3章4

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 テーブルを指先で数回叩き、ゲームを進める。掛け金の吊り上げを告げれば、相手の眉がはっきりと不快そうに寄せられる。程なくしてディーラーがさも無念そうにウッドの勝ちを告げた。
 おおと、周囲からどよめきがあがる。二桁を優に超える勝負の間で、ウッドは一敗もしなかったのだ。まるで相手の手の内が透けて見えてでもいるかのように危なげなく、彼は勝ちを重ねた。そのたび、リヴズンの表情が悔しげに歪んでいく。
「おたく、ほんまに強いんやなあ」
「ツキですよ。これだけの幸運を続けられる人間と組むのはいい話だと思いません?」
 笑顔で降参を勧めてみたのだが、相手の眉間の皺が深くなるばかりだ。
「まだ勝負は残ってま」
 ここで頷くほど一筋縄ではいかない相手だった。元々、そんなに熱心に協力する気はないのだろう。ウッドとしても、彼の人柄や理想はどうだっていい。懐の金さえ注ぎ込んでくれれば、それでいいのだから。
 何度やったところで同じなのにとぼやきつつ、ウッドは手の中でカードを弄んだ。可哀想に、相手は裏が透けるカードを使っているようなものだと知らないのだ。ご苦労なことだと、胸の内でせせら笑う。
 だから、ウッドとしては満たさなければならない条件はひとつだった。
 優桜たちが、相手の機嫌を損ねないうちに聖護石を取って帰ってくること。
(五分五分ってところかねえ)
 相手と同じだけの掛け金を上乗せするとディーラーに告げ、カードを交換する。勝てるだけの役は既に完成しているから、あくまでポーズだ。運が良ければもっと上の役が来る。
 ゲームが終了して、カードを開けようとしたところでその場の静寂が破られた。
 息を切らせて、老人が入ってきた。鉱山、黒ずくめの集団、氷……そんな単語が漏れ聞こえてくる。男のひとりが立ち上がると、わめき続ける老人を外へと連れ出した。しばらくしてその男から報告を受けたリヴズンは、久方ぶりに愉快そうに顔を緩ませてた。
「グリーンはん。真なる平和姫が黒ずくめの集団に襲われとるそうでっせ」
「襲われ……?」
 ウッドは眉を上げた。
「黒っちゅーことは武装集団の残党ちゃいますのんかいな。いやー、物騒な世の中やねえ。それかあんさんらが恨みこうとるっちゅーことかいな」
 自分に勝ち目が見えてきたからか、先ほどまで目の前にいた女の子が襲われているという内容を話しているはずなのが信じられない明るい声である。
「自分の手がキレイなまま世界を変えられるとは思ってませんよ」
 ウッドは和やかにそう返す。
「聖護石が届かんかったら、協力の話は反故にさせてもらいまっからな」
「大丈夫です。真なる平和姫は約束を守ります」
 ウッドは優桜のことを思い浮かべた。真っ直ぐな目をした少女を思った。
 もしも、ここで優桜が相手を倒したとしても。万が一、倒されてしまったとしても。
(オレとしては、どっちでも好都合なんだよ)
 そう付け加えると、ウッドはカードで隠した口の端を吊り上げて笑った。
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