桜の雨が降る 2部2章1
2.契約の取り付き
「真なる平和姫、って……」
「そりゃあんたのことだよ」
おそるおそる自分を指した優桜に、ウッドはあっさりと言い放った。
「あたしが何をするの?」
「ンな怯えなくていいよ。ただにこやかに微笑んで「がんばります」って言ってくれれば」
そんなことでいいのだろうか。疑問が顔に出たのか、ウッドは言葉を足した。
「旗頭になってくれって言っただろう。こっちも戦力的なことは最初っからあんたには求めてない」
「そっか」
ほっとしたような、それでいて情けないような気がして、優桜は複雑に気分になった。
「飾りがみすぼらしいと機能しなくなるから、それなりの格好しといてくれよ。あ、格好で思い出した」
ウッドは言うとソファから立ち、事務所のロッカーの中から細長い包みを取り出してきて、食事の終わっていた優桜の膝に乗せた。
「何、これ」
「開けてみな」
促されるまま包みをほどくと、中から出てきたのは一振りの剣だった。透明感のある桜色の鞘から刃を抜くと、細身の両刃が姿を見せた。
「これ、本物?」
「ニセモノ渡してどうするよ」
優桜はそっと刃に指を這わせた。冷たい感触は、紛れもなく本物の刃だ。
おそるおそる立ち上がって剣を取り、腕を少し動かしてみる。本物の刃のはずなのに、いつも扱い慣れている竹刀より少し軽くて、動かしやすかった。
「使えそうだな」
ウッドが頬を緩ませる。
「あんまり……使いたくない、かも」
何度目かの複雑な気持ちに、優桜はほうと息をついた。
「そんなこと言わずに持ち歩いてくれよ。それがあれば繁華街に連れ込まれたって言われても、少しは心配しなくてすむ」
優桜は目を丸くした。ウッドは、心配してくれたのだろうか?
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