桜の雨が降る 1部1章幕間
【幕間】
そこは照明を落とした部屋の中だった。
ふたつ置かれた机の片方には本が山積みにされ、もう片方には端末が置かれている。
そのふたつの机の間には背の高い本棚があり、本の名前は暗くて読めないものの、大量の本が収められていた。
反対側に、背の低いベッドが置かれている。その向こう側には窓があり、夜空に青い月が浮いていた。月の形は半月より僅かに大きいくらい。まるで、ぽっかりと中途半端に割られて放り上げられ、そのままひっかかってしまったかのような不安定な形だった。
「へえ……じゃ、彼女はもうすぐこっちに来るんだ。やっとだね」
ベッドの上に人が座っていた。パジャマ姿で、首にかけたタオルでどうやら濡れているらしい髪をぐしゃぐしゃとかき回している。
「彼女を上手く使えば、願いは叶う、と。そうでしょ?」
この暗さでは表情が見えないのだが、声音はひどく気楽なものだった。水滴が飛び、シーツに点々と染みをつける。まるで血しぶきが散ったように。
「わかってる。アイツみたいなヘマはしないよ」
人物が青い月を見上げ、唇の端をつり上げる。
そして、青い月に向かって片手を差し出した。
「早くおいで。ずっと待ってたんだ……『真なる平和姫(トゥルーピーシーズ)』」
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