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 北部のターミナルで降り、そこからバスに乗り換えて。8人が目的地につい
た時には既に日が暮れていた。
 エヴァーピースのような地方都市だというが、日が暮れている事を抜きにし
てもさびれた印象はぬぐえなかった。北部出身のシエル曰く「ほとんどこんな
もん」とのことだったが。
 安宿に2つ部屋を取り、少し休んでから男性陣が使っている方の部屋に集ま
る。既に哉人が、持ってきたノートパソコンを接続していた。
「これからどうするの?」
「データがこれ。先にプリントアウトしておいた」
 配られたのは見取り図だったが、地下から頂上階まで、実に5枚近くに渡っ
て図面が網羅されていた。
「え、何これ」
「広いなー……」
「バスから大きな屋敷が見えたでしょ? 絵麻が「お城みたい」って言った」
「あそこなの?」
 確かにバスからは、山の手の方に大きな屋敷があるのが見えた。その屋敷は
高い塀にぐるりと囲まれ、上部にはいくつもの塔がつけられていて、絵麻には
欧州の城の様に見えたのだ。アテネがいた貴族の屋敷も豪華だったが、今回の
その屋敷は数倍豪華で、数十倍広かった。
「標的が自分の部屋にいるのかもわからない。飼い殺しにしてる女の子たちの
ところかもしれないし」
「ヤな話」
 リョウが眉を寄せるが、仕事なので仕方がない。
「信也と話してたんだけど、分担したほうがいいなって。暗殺決行が僕かリリ
ィ。哉人と絵麻は地下で軟禁されてる女の子たちの鍵を壊して欲しいんだ」
「オレは?」
「ちょっと考えてるんだよね……地下が必ず安全って保証がないからそっちに
行ってもらうか、暗殺に入ってもらうか」
 規模のわりに裂ける人数が少ないと、翔が一人ごちた。
「ねえ、翔さん」
「何?」
「アテネ、お兄ちゃんと一緒がいい。一緒に行きたい……ダメ?」
 アテネがおずおずと聞く。
「うーん……」
 今回は人数を裂けないから、翔本人はアテネを信也たちのところに残すつも
りだった。
「お願い。ね、信也さん」
「アテネ。今回はギリギリだから、危ない事はさせられないよ」
「お願い……リョウさん、リリィさん。アテネ、頑張るから。人が少ないん
だったら少しでも役に立つよ」
 なおも縋ってくるアテネにリョウは困り顔だったのだが、リリィは頷いた。
『翔、連れて行ってあげよう? 私も頑張るから、シエルがいなくても大丈
夫』
「じゃあ……2−4で。通信の起点は信也とリョウにやってもらって」
「了解」
「絵麻、アテネ、絶対に無理しないでね。僕らが今回はフォローできないか
ら」
「うん、わかった」
 たいへんそうなのは伝わってくるので、絵麻は素直に頷いた。
「じゃ、もう行くか。早いほうがいいだろう」
「ちょっと待って」
 翔は持ってきた荷物を開けると、中からいくつかバスビーズによく似た球体
を出した。
「戻り玉?」
「ううん。新開発の『追跡玉』」
 やや楽しげに言って、翔はテーブルの上に球体を転がした。赤、青、緑……
様々な色がランプの光を弾く。
「わあっ」
「これ何? どうやって作ったの?」
「パワーストーンの粉を混ぜて、マスターのいる場所を追跡できるようにした
『戻り玉』の応用版。絵麻は見てるよね?」
「うん」
「凄いな。そんなことできるんだ」
「絵麻の青金石だけ他に入手できる場所がなかったからないんだけど、他は全
員分あるから」
「じゃ、これはぼくのか」
 哉人が青いボールをつまみあげる。青い石を持っているのは絵麻と哉人だか
ら、そうなるだろう。
「うん。青が哉人。透明がリリィ。乳白色がリョウ。赤が信也。緑は三種類あ
るからわかりにくいんだけど、濃い方からアテネ、シエル、僕の順番」
「焦ったら間違えるんじゃ……」
「俺、絶対忘れる」
「改良の余地有りだね。イニシャルでも入れようかな」
「これをどうするんだ?」
「通信機、みんな持ってるよね?」
 翔が示したのは、100円ライター程の小さな機械だった。
 これも翔が作った物で、スイッチを入れると全体が音声の送受信端末になる。
「誰かから緊急コール入ったら、戻り玉と同じように叩きつけてくれたらその
人のところに行けるから」
「絵麻だったらどうするの?」
 いちばん危ないのに、と付け加えられた言葉に、絵麻は反論できなかった。
「絵麻、絶っ対別行動しないでよ」
「うん、わかった」
 絵麻はこくこくと何度も顔を縦に振る。
「今回がいちばん危ないからね。地下に監禁されたら目もあてられない事態に
なるんだから」
「それって……」
 絵麻が青ざめたのを見て、リリィがぎゅっと手を握ってくれる。その手は力
の入りすぎで震えていた。
「シエルと哉人から離れない事。これはアテネも。わかった?」
「言われなくても離れないもん!」
 アテネがシエルの膝をつかむ。兄が腕によりかかられるのが嫌いなのを、ア
テネはよくわかっていた。
「ずーっと一緒なんだから」
「はいはい」
 リョウが苦笑いする。これで14歳の立派な大人だというから笑い話だ。
「そろそろ行こうか。夜明けまでには決着つけないとね」
 翔が言って立ち上がる。
「みんな、怪我しないようにね」
「気をつけろよ」
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