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 翌日、PCの休業日に彼らは任務を決行する事にした。
 封隼は薬が効いてよく眠っていたから、彼には何も言わなかった。枕元にメ
モだけ残しておくことにした。
 翔たちは唯美の仕事が終わるのを密かに期待していたようだったが、終わら
なかったらしく今日も唯美は帰ってこなかった。
「仕方ないな……」
 というわけで、彼らはバスと鉄道を乗り継いで北部まで行く事になった。
「わー、わたし、こっちの電車に乗るの初めて!」
「アテネもー!」
「これだけ目的と外見が合ってないってのも凄いな」
 はしゃぐ2人を見て、哉人がぼそっと言う。
 どこからどう見ても友人同士の小旅行だ。「これから暗殺に行きます」と
言って信じる人はおそらくいないだろう。
 朝早くエヴァーピースを発ったのだが、目的地に着くのは夜だと言う。北部
までは遠い。
 電車のボックス席に男女別れて収まって、ちょうど昼になったので絵麻が
作ったサンドイッチのお弁当を開く。
「リョウ、長時間移動して大丈夫?」
 リリィも心配そうに覗き込む。
「大丈夫よ。自分の体ぐらいちゃんとわかってるから。信也は平気?」
 リョウは後ろのボックス席から後頭部がはみ出している幼馴染に聞いたが、
彼も大丈夫だという。
「北部までどのくらいで着く?」
「駅までは2時間半、かな。そこからバスで1時間くらい」
 地図と時刻表を見ながら翔が言う。
「ヒマだなー。唯美がいりゃ一瞬なのに」
「まあまあ。帰りは戻り玉で一瞬だし、それにこういうのも機会がなきゃでき
ないし」
「そうだぜ? 鉄道って高いんだから」
 シエルは窓を開けて、子供みたいに景色を見ている。吹く風が彼のプラチナ
の髪を揺らした。
 食べ終わると、翔はポケコンでパズルゲームを始め、横から哉人が口を出し
ていた。信也は流石に疲れるのか、気づいた時には眠っていた。
「リョウさん、寝なくて平気?」
 サンドイッチの包みを片付けながら、アテネが尋ねる。
「うん」
「せっかくだから遊びたいね。何かあるかな? ね、絵麻ちゃ……」
 絵麻を呼んだアテネに、リリィが「静かに」と唇に指をあてる。
 いつの間にか、絵麻は窓枠にもたれるようにして眠っていた。
「あれ」
「きっと疲れたのね。朝早くからお弁当作ってくれたし」
「じゃ、3人で遊ぼ?」
 結局、リリィのメモ帳を借りて絵でしりとりをすることになった。リリィも
遊べる内容という事で、密かに女の子の間で流行っていたりする。
 鉄道のカタンカタンという心地よいリズムに揺られながら、絵麻は夢を見て
いた。

 そこは薄暗い部屋だった。
 はるか頭上に明り取りの窓があるが、役目を果たしているとは言いがたい。
 その部屋に、薄物をしどけなくまとっただけの女の子がいた。
 膝を抱え、露出した肌をできるだけ隠すようにしている。
 少女の足には枷がはめられ、それはベッドにつながれていた。
(……誰?)
 少女は泣いているが、声は聞こえない。
 どうして泣いているんだろう。どうしてこんなところにいるんだろう。
 言葉はなかったが、彼女の悲しみが絵麻にははっきりと伝わってきた。
 心が破れてしまいそうな、まだ年端のいかない女の子にはあまりに重い悲し
み。
(何で、こんな小さな子が……)
 僅かに入ってくる光が、少女の涙と金色の髪とにちらちら反射した。
(泣かないで)
 そう言ってあげたいのに、声が出ない。
 その時、扉が開いて軍服を着た男性が入ってきた。
 少女がびくりと顔をあげ、逃げ出そうとする。しかし、足枷でつながれてい
るから、それはできなかった。
 男性は下卑た笑いを浮かべ、少女の薄物を引き剥がすと持っていた鍵で少女
の足枷をはずし、そのままベッドに少女を組み敷いた。
(!)
 少女の碧色の瞳が恐怖と嫌悪に歪んでいるのを見て、たまらず絵麻は割って
入ろうとした。少女を助けようとした。
 けれど、絵麻の体は2人をすり抜け、別の場面を覗いていた。
 同じような場面。けれど、組み敷かれているのは女性だった。彼女は青い瞳
に涙を浮かべていた。泣きながら誰かの名前を呼んで助けを求め、自分を組み
敷く相手に殴られていた。
「どうして……どうして助けてくれないの?!」
 女性が絶叫する。長い、鈍い色の金髪が奔流となって跳ねた。
「お前は国王様に金で買われたんだ! 言う事を聞け!」
 何度も殴られ、女性は悲痛な声をあげる。
 絵麻の目の前で何度もそれが繰り返され、いつしか女性は何をされても反応
しなくなっていた。
 そうすると男性も面白くなくなったのか、女性を放っておくようになった。
 軟禁される女性の元に、ある日、使いが現れる。
 使いは女性に「反逆罪のかどで火刑が決定した」と告げた――。
 泣いて抗う女性を、何人もの役人が引っ張って連れていく。豊かな髪をばっ
さりと切り、粗末な服を着せ、木の棒にくくり付け。
(止めて)
 足元に組まれた薪に火がつけられる。女性の服を炎が舐め、手足が燃え上が
る。
(止めてあげて! その人は何も悪い事してない!!)

「絵麻?」
 その時、肩を揺すられて絵麻は夢から覚めた。
「……助けて」
「え?」
「絵麻ちゃん、どうしたの?」
「……」
 瞬いてみる。
 そこは夕方の光が差し込む電車の中で。リリィとリョウ、アテネが不思議そ
うに自分を覗き込んでいるのだった。
「あ……夢だったんだ」
 何て生々しい夢だったんだろう。
 絵麻は額に流れていた嫌な汗をぬぐった。
「そろそろ駅に着くから、降りる支度をしないと」
 電車のリズムは、いつの間にか拍子を変えている。
「うん」
 絵麻は荷物を棚から膝の上に下ろした。
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