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 その時だった。
「信也っ!」
 息を切らせて、翔がその場に走りこんできた。
「しょ……う……」
「警察部に行ったらめちゃめちゃになってて……で、コイツが真犯人? 何で
信也と顔が同じなわけ?」
 ぼろぼろになった信也の体を、翔は抱き起こす。
「俺の、双子の弟……6年前に死んだんだけど、亜生命体になってて……」
「だったら、倒さないと!」
 シャーレを取り出した翔を、信也は弱々しく制した。
「ダメ……」
「何で?!」
「正也の方が、正しいから……」
「どういうことだよ?!」
「どうもこうも。俺は6年前、信也に裏切られて殺されたんだよ」
 剣を翔に突きつけながら、正也が答える。
「信也をかばうんなら、あんたも敵だから。俺、切っちゃうけど?」
「……ライトニ」
「よせっ!」
 呪文を唱えかけた翔を、信也が止める。
「けどっ」
「正也は俺が殺した……だから今復讐されてるんだ。これは、正也の当然の権
利なんだよ」
 信也の血まみれの頬を、涙が伝った。
「正也……ごめんな。どれだけ謝っても足りないよな」
「今更詫びいれても遅いんだよ」
 正也が剣先で、信也の頬をつつく。
 その正也に、信也は疲れたような、それでいてふっきれたような笑顔を見せ
た。
「……俺を殺せよ」
「信也?!」
「正也は、今の俺が幸せだっていったよな。だったら殺して入れ替わればいい。
髪の毛を染めるだけだし、正也は記憶力がいいから、通信の仕事だってすぐ覚
えられるだろう」
「……」
 その場に沈黙がおりる。
「殺してくれれば、楽になれるよ。俺、ずっと悩んでた。何で自分が生きてる
のか、こんな自分で周りを支えていけるのか……って。
 正也は、生きたいんだろう? 生きてリョウの隣にいたいんだろう? だっ
たら入れ替わろうよ。俺、自分以外の奴がリョウの隣にいるのゆるせないけど、
お前なら、いいから。あの日、言われた時に、そう決めたから……」
 傷だらけの顔で、信也はゆっくりと笑った。
「……」
 正也の剣を持つ手ががくがくとわななく。
「いつもそうだ……俺の方が頭はよかったのに、いつだって信也の方が満たさ
れてた……弟たちの面倒を見て……自分の仕事、きっちりこなして……」
 その時初めて、正也の表情から狂気が消えた。
 そこにあったのは何が起きているかわからない、子供のような顔だった。
 彼は混乱し困惑し……そして、剣を振りかぶって絶叫した。
「あああああああああああああああっっ!!」
 そして、正也は剣を信也に向けて振り下ろす。
 翔がかばう間もなかった。
 体を袈裟がけに切られて、信也はその場に倒れた。
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