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「あれ? 味付けイワシの缶詰ってありませんか?」
 あれから気晴らしに買い物にやってきた中央西部エヴァーピース、フリード
の雑貨店で、絵麻は店主相手に尋ね事をしていた。
 頭を傾けるたび、肩をすぎるかすぎないかの黒髪がさらさらと揺れる。澄ん
だ色の瞳は、真っすぐに店主を見つめていた。
「ああ、あの缶詰は南部からの品物でね。あっと言う間にはけちゃったんだ」
「次はいつ入りますか?」
「予定が立ってないんだよ。何しろ中央西部では魚は珍しい品物だからね」
「え? それじゃこの前のサバの缶詰も、その前のサンマの缶詰も?」
「悪いね」
 店主が伝票を見ながら言う。
「うー……イワシのフライが評判よかったんだけどな」
 絵麻はここ、エヴァーピースにある平和部隊『PC』で寮監をつとめている。
肩書は寮監だが実質は家政婦のようなもので、料理と掃除と洗濯を仕事にして
いるのだ。
 悪夢の気晴らしにと、この前寮のメンバーに評判がよかったイワシのフライ
を作ろうとしたのだが。
「中央首都ならガイアじゅうの品物が集まるからあるかもしれないがね」
「中央首都?」
「ああ、PCの前にバス停があるだろう? そこから乗合バスに乗って、1時
間くらいしたら中央西部のステーションにつくから、そこからまた列車に乗っ
て」
「ふうん……」
 絵麻はこの街からあまり外にでない。いつもこのエヴァーピースを囲む大き
な森の中に暮らしている。
「翔たちに頼んで教えてもらったらどうだい? そろそろ森の外に1人で出て
も平気だろう」
「うん。ありがとう、おじさん」
 絵麻は言うと、買った品物を抱えて店の外に出た。
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