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 PCの図書室は、調査部の建物の一角にある。
 PCは学術機関ではないので兵器や地理に関する本などが大半を占めるのだ
が、それでも歴史書や古典書などの棚も片隅にある。
 本を読むのが好きな翔は実験に行き詰まるとよくここに来て、片っ端から本
を読んで回ることがある。そのため、図書館のめぼしい本はほぼ読み尽くして
いる。
 古い詩集はここでみつけたものだ。
 利用者が少ないのをいいことにかりっぱなしにしてある。あれからいろいろ
あって時間がなかったが、今日は他に詩集に関連する資料がないかを調べに来
たのだ。
「100年前、だよね……100年前」
 歴史書の棚から年表を取り出そうとして、翔はそこにPCの年表があること
に気がついた。
「へえ。まとめてる人がいるんだ」
 興味半分に引き抜く。
 冒頭の数字はG461年。今がG561年だから、ちょうど100年前だ。
「……え?」
 PCは、100年前から始まっている?
 翔はとっさにメモしようとカバンからノートとペンを出したのだが、焦って
いたせいか手元が狂い、ペンを落としてしまった。
「あ」
 ペンは転がって、棚の下に入ってしまう。
「しまった……」
 翔はカバンをおいて棚の隙間から手を伸ばしたのだが、届かなかった。
「困ったな。裏に回れないかな」
 めったにいかない奥まで入って、棚の裏をのぞき込んでみる。と、そこは狭
いスペースながら、書架になっていた。
「あれ、こんな棚あったんだ。知らなかった」
 翔は本を物色しつつ、床に転がっているペンまで歩いて行った。
 その棚におさめられているのは分類の違う、様々な本だった。小説から料理
書にはじまり、果ては兵法指南書まである。
 ただ、どれもぼろぼろに古びていた。
 ペンを拾ってから、翔は『パワーストーン研究』と銘打たれた本を開いてみ
た。
 本というよりノートに近いそれは、手書きの研究資料だった。すっかり日に
焼けてぼろぼろになった表紙には「天承氷牙 G461〜」と書かれている。
「? これ、100年前の資料?!」
 慌てて、手近な棚から小説を引き抜いてみる。奥付の日付はこれも461年
だ。
 他の資料も、ほとんどが461年か、その年代のものだった。
「……どうして」
 後ろの壁にもたれかかった時、翔の肩に固い何かがあたった。
「?」
 それは、額縁だった。
 ここは図書室だ。絵が飾ってあってもおかしくない。
 けれど、どうしてこんな人目につかない棚の裏の壁に?
 翔はその額縁を壁からはずして、中に入っている絵を見てみた。
 それは、少女を描いた絵だった。
 白いサンドレスを着た、15、6歳とおぼしき少女が絵の中で微笑んでいる。
「……何、これ」
 肩付近まで伸ばされた黒髪。澄み切った色で描かれた茶色の瞳。
 どこか幼くあどけない雰囲気まで、その絵の少女は絵麻と似ていた。似過ぎ
ていると言ってもいいほどに。
 違うのは絵の少女が白いサンドレスを着ているのと、絵麻がいつもつけてい
るピン留めがないことだけだ。それだけなのだ。
「…………絵麻?」
 絵の中の日付は、G461。
 そして、少女のサンドレスの胸元には、青い石のペンダントが下がっていた。
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