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「びっくりしたあ」
「絵麻って命知らずだよな。Mrに名前聞くなんて」
 Mr.PEACEの執務室がある階から1つ下がった階段で、信也とリョウ
がかわるがわるに言う。
「え、聞いちゃいけなかったの?」
「いけないこともないと思うけど、あの雰囲気で名前は……」
「・・・・・・」
 翔が苦笑いする。
 リリィも笑っていたが、彼女は安心させるように絵麻の髪を撫ぜてくれた。
「ヒガ、っていうんだな。Mrって」
「みんな、知らなかったの?」
「PC総帥はMr.PEACEで通ってるからね。名前があって当然なんだけ
ど」
「それにしても、中央なんだか南部なんだかわかんない名前だな」
 翔が首をひねっている。
「あの外見だから南部の人だと思ってたんだけど」
「苗字は南部っぽかっただろ。ボルなんとかって」
「ボルゴグラード?」
「そう、それ」
 信也は5分前のことさえ忘れている。
「とりあえず、帰ろう? お腹すいたでしょ」
「そうだな」
「あ、僕ちょっと調べ物」
 翔は持っていたカバンから最近ずっと読んでいる、古い詩集を出して掲げた。
「こんな時間に?」
「珍しいな。食欲優先のお前が」
「調べ物も優先。ちょっと気になってさ。あ、絵麻、僕のぶんとっといてね」
 そう言うと、翔は出口とは反対側の廊下を歩いて行った。
「あっちに何があるの?」
「さあ?」
「あたしもPCの中は……リリィ、わかる?」
 リリィから返ってきた返答は『図書室』だった。
「そんなんあったんだ、PC」
「俺、使わないけど」
「そりゃそうでしょ」
「じゃ、わたしたちは先に帰らせてもらおうか。シエル達、ご飯待ってるかも
しれないし」
 絵麻はリリィと並ぶと、階段を降りた。
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