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「!」
  心臓が飛び出しそうな勢いで鼓動を打つ。
  椅子に座った人物は、ぶつぶつと何かを呟いているようだった。
「誰……?」
  問いかけるが、返事はない。
  絵麻はポケットに入れたラピスラズリのペンダントをぎゅっと握りしめた。 
(大丈夫……大丈夫)
  ゆっくり這うように進んで、絵麻はフットライトの側までたどりついた。
  手探りでスイッチを入れる。
  と、淡い光が下から部屋を照らし出した。
  椅子にかけていた人物の正体も。
「!」
  光に、ぐったりと椅子にもたれた人物のプラチナの髪が反射する。
  ひらかれたままの青い目はガラス玉のよう。半開きになった唇に、水に溶け
た白い錠剤がこびりついている。
  襟元から胸にかけてワンピースがぐっしょりと濡れていて、その胸には短剣
が突き立てられていた。
  下からの光に照らし出され、いっそうの不気味さがそこに添えられている。
「アテネ……ちゃん?」
  間違いない。
  この前出会った、ここの貴族屋敷の養女でシエルの妹であるアテネだった。
  慌てて絵麻は部屋の他の明かりもつけると、椅子に駆け寄った。
「アテネちゃん!!」
  どこからどうみても胸を刺されている。
  封隼は処置が早くて助かったけれど、この状態では刺されてからどのくらい
経っているかがわからない。
  少なくとも、封隼の時より時間が経っていることは確かだ。
「ひどい……どうしてこんなこと……」
  絵麻はアテネの濡れた肩を抱き寄せた。
  ひどい折檻を受けたのだろう。額や喉元がところどころ腫れている。
「可哀想……」
  絵麻はそっと、むごく腫れた額に触れた。
  と、アテネが逃れるように、顔を背ける。
「え?」
  生きている?
「アテネちゃん?」
  絵麻はそっと肩をゆすった。
  そういえば、封隼の時と違うところが他にもある。
  この部屋は血の臭いがしないのだ。
  と、胸に突き立てられた短剣がぐらりと揺れた。
  そのままあっけないほど楽に抜けて、床に転がる。
  青々とした刃には血の染みどころか、曇りひとつみられなかった。
「どうなってるの?」
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