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5.救出劇

「いったたた……」
  乱暴に床に投げ出され、絵麻は頭を押さえた。
「床?」
  そこはさっきまでいた庭の芝生ではなく、豪華な模様の織り込まれた絨毯の
上だった。
  真っ暗な部屋の中で、明かりもないため様子がまるでわからない。
  自分が転がった場所をとりあえず認識して、何があったのかを整理してみる。
  あの花庭を訪れたのだった。アテネとおちあい、血星石不法所持の証拠を得
るという手筈で。
  けれど、待っていたのはアテネではなく、この貴族屋敷の主だった。
  主は大人数の武装兵に絵麻たちを襲わせた。シエルがつかまり、絵麻もまた
つかまりそうになったのだが、その時に唯美が自分の手を取り、こう言ったの
だ。
『いいわね?  飛ばすわよ?!』
  そのあとで視界が真っ白な光に焼き尽くされたのだ。
「唯美がテレポートしてくれたんだ」
  唯美と哉人はあれからどうなったのだろう?  つかまってしまったシエルは?
  それに……アテネは本当に自分達を裏切ったの?
  絵麻にはそれが信じられない。
  あんなに無邪気で、兄に会えると喜んでいた女の子だ。その子が手のひらを
返したように兄を拒絶し、殺すことを頼むだろうか。
  それとも……それともあの無邪気な顔はうわべだけだったのだろうか。
  北部の貧しい子供、貴族の恩情にすがって生きているという事実に嫌気がさ
して、貴族に恩を売りたくて実の兄を道具に仕立てたのだろうか。
  そう考えると、絵麻は震えが止まらなくなる。
  それが姉の考え方だったから。
  人を道具としてしか考えず、利用することしか思わないのが姉の生き方だっ
たから。
(怖い……)
  絵麻は自分で自分を抱くように、手で両肩を押さえた。
(でも、怖がっていてはダメ……わたしをわたしとして見てくれる人だってちゃ
んといるじゃない)
  ふっと、翔の顔が浮かんだ。
「そうだ。連絡とらなきゃ……でもどうやって」
  絵麻は絨毯の床に手をついて、体を起こした。
  と、その手がぐしゃりと濡れる。
「?!」
  びっくりして床についた手を見てみる。水がついていた。
  絨毯を確認してみる。水がこぼれた跡があった。
「絨毯に水?」
  ようやく視界が闇に慣れてきて、絵麻は周囲を見回す。
  絨毯にはところどころ、水をこぼしたような黒い染みがある。白いラムネの
ようなものもそこかしこに転がっていた。
「?」
  それをのぞけば豪華な調度品の置かれた部屋で、フットライトがみてとれる。
「そうだ。あれをつければ少しはみえるかも」
  絵麻はライトの方に歩きだそうとした。
  その時になって、絵麻は部屋の中央に置かれた椅子に誰かが座っていること
に気がついた。
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