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  その時、アテネのワンピースの中からことりと、床に何かが落ちた。
  いびつな形をした木片が2つ。
  半円型、とかろうじていえるいびつな形で。片方には緑色の石が押し込まれ、
もう片方には乱れた文字が刻まれている。
  その文字を少しかかって判読した絵麻は、はっとなった。
  『大切なアテネへ。シエルより』
  おそるおそる、円形になるように木片を合わせてみる。
  その中央には、短剣で刺されたとおぼしき穴が穿たれていた。
  元々1つだったものが、そこから2つに割れたのだろう。
 ――アテネは無傷だ。
「ねえ、アテネちゃんしっかりして。アテネちゃん!」
  絵麻はアテネを揺り起こそうと、必死になって肩をゆさぶった。
  うつろな目に、ゆっくりと光が戻っていく。
「……だぁ、れ?」
「わたし、絵麻だよ。アテネちゃん、しっかりして。何があったの?」
「え、まちゃ、ん……」
  アテネの目にみるみる涙が浮かぶ。
「ご……め、ん、なさ。ごめん、な、さい……」
「アテネちゃん?」
「はな、し、ちゃ……た。くすり……飲ま、さ……て」
「薬?!」
  やっと合点がいった。
  アテネは無理やりに何かの薬を飲まされて、絵麻達があの庭に来るのを貴族
に話してしまった。
 逆上した貴族が胸に短剣を刺したが、おそらくは隠し持っていた木のプレー
トのおかげで難を逃れた。
  水が点々とこぼれているのは少しなりとも抵抗したためだろう。
「ごめ……なさ……。お兄ちゃ、ご、めな……い」
「アテネちゃん」
「おにいちゃ……お兄ちゃん、ごめん、なさ……」
  表情が時々うつろになり、瞳の光も消える。ろれつが回らなくなって、まる
で死の闇に引きずり込まれる寸前のようだ。
「アテネちゃん、しっかりして……」
  アテネは薬を飲まされてこんな状態になった。
  ひょっとして、命にかかわるものを飲まされているのでは?
「どうしよう……」
  簡単な応急処置の話なら祖母にきいたことがある。
  飲んではいけないものを飲んでしまった場合。
  確か、吐かせるのだ。その後で大量に水を飲ませてから医者に診せる。
「お医者さん」
  絵麻はリョウを思い浮かべた。
  何とかして連絡を取って、リョウをここに呼べれば。
  その時、絵麻の目に床に転がっているライター大の機械が映った。
「これ……通信機?」
  最初に来た時に落としてしまい、後にアテネが拾っていたはずの通信機だっ
た。
  撒き散らされた水に濡れているのが不安だが、動くかもしれない。
  絵麻はすがるような思いでスイッチを入れた。
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