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4.大切な人

(何が起こったの……?)
  絵麻の頭は真っ白に麻痺して、事実を受け入れようとしなかった。
  目の前では黒い軍服の少年が倒れ、傍らに血染めのナイフを持った少女が立
ち尽くしている。
  PCの人間が武装兵を殺したんじゃない。
  正しい、正義の行いじゃない。
  こんなの、目にとめるだけのことでもない……。
  正当化しようとした頭が、ふいにクリアになった。
  違う。
  『お姉さん』が『兄弟』を殺したんだ。
  あの時のわたしたちと同じ。わたしたちと、同じ……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
  それを認めた瞬間、絵麻は血を吐き出すような悲鳴をあげた。

「!」
  街に入り込んだ武装集団を始末し、南の森を目指していたリリィはその悲鳴
を聞いた。
「・・・、・・・!」
「絵麻だ……」
  聞こえたのは翔も同じ。
「まだ残ってたのか?!」
  彼らはスピードを上げ、南の森に走りこんだ。
「絵麻、絵麻どこ?  絵麻!」
  ほどなくして、翔は地面に膝をついて座り込んでいる絵麻をみつけた。
  怪我や襲われた形跡はどこにもない。
  翔は内心でほっとしながら、彼女に近づいた。
「絵麻、大丈夫だった?」
「しょ……う?」
  絵麻が顔を上げる。
  その表情は今にも泣き出しそうで、見ていてつらいほどに苦しそうだった。
「どうしたの?  どこか怪我したの?!」
「あそこ……」
  どこか虚ろな声で、自分が向いていた方を指す。
「?」
  翔は何げなく覗きこんで、凄まじい光景に大声を上げた。
「唯美!?」
  そこでは封隼が血まみれになって地面に倒れ、横で唯美が血染めのナイフを
握って立ち尽くしている。
  何があったかは容易に想像できた。
「こんなのひどいよ……わたしと同じ……」
  絵麻は小さく言って、上体をふらりとさせた。
  あわててリリィがその体を抱きとめる。
「・・、・・・・・?  ・・!!」
「倒れちゃいけないよね……迷惑だもん……」
「・・・・・・・!」
  リリィは強引に、自分のショールの中に絵麻の体を包むようにして抱き込ん
だ。
「何があったんだよ……どうしてこんな……」
  翔は絵麻のことを気にしていたふうだったが、立ち尽くしている唯美の元へ
歩み寄った。
  血まみれのナイフを持ったまま、唯美は虚ろな目で立ち尽くしている。
「唯美?」
  その時だった。
「どうしたんだ?」
「すごい悲鳴がしたけど」
  反対側から、シエルと哉人がやって来た。
  彼らにも絵麻があげた悲鳴は聞こえたらしい。
  2人は翔たちと同じように何げなくやってきて、繰り広げられている光景に
息を飲んだ。
「!」
「唯美、お前!!」
  シエルが左腕だけで唯美につかみかかる。
「封隼はお前の実の弟だろ?!  なんで傷つけるんだよ!!  年上の兄弟は、年下
の兄弟を守ってやるもんだろ?!」
「……わからない」
  唯美はきっと顔を上げた。
「わからないのよ!!  親も兄弟もいない、金儲けだけが趣味のアンタなんかに、
アタシの気持ちはわからない!!」
「わかるさ。オレにだってな……」
「言い争いしてるんじゃねえよ」
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