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  封隼の側にしゃがみこんでいた哉人が声をあげる。
「まだ息があるんだ」
「え?」
  思わず全員の視線が哉人に集中する。
「リョウを呼べば助かる」
 リョウは生きている人間なら傷を治すことができる。
「本当だ……弱いけど」
  翔が手をかざして、封隼の呼吸を確かめる。
 微かだが、呼吸をしているのが伝わってきた。
「ぼくが呼んでくる。リョウはどこにいた?」
「信也と一緒に後方配置だと思うけど」
「わかった」
  哉人は言うと、自分の服が血で汚れたのにも構わずに駆けていった。
「生きてるのか?」
「うん。呼吸がすごく弱くて不規則だけど」
  倒れている封隼は、穏やかだがどこか悲しげな表情をしていた。
  まるでこうなることを予想していたみたいな……。
「応急手当。リョウが来るまでにしてやれねえの?」
「この出血だとどこを刺されたのか……」
  唯美をみるが、彼女は口をつぐんで答えようとしない。
「胸だよ」
  リリィに助けられてようやく立っている状態の絵麻がぽつりと言った。
「胸?!」
「わたし見たの。ナイフ、胸に刺さって……!」
  バランスを崩しかけた絵麻をリリィが支える。
「胸……ってことはうかつに動かせないな」
  その時だった。
「翔、そこどいて。早く診せて!!」
  リョウが凄い勢いで翔のいた位置に割り込んで来た。
「リョウ」
「どこをやったの?!  手?  足?  頭?」
「胸だって言ってたけど」
「まだ息があるのよね?!」
  リョウは何かに追い立てられるような勢いであちこち探ると、封隼の胸の上
に左手を置いた。
「信也、ちょっとここ支えててくれる?」
「わかった」
  反対側から一緒に来た信也が手をかした。      
  リョウの手首につけられたブレスレットのヘッド――乳白色の石が輝く。
「治療効(ヒール)!」
  輝きが傷口を包み込む。と、封隼の表情が歪んだ。
「うぐ……」
  口の端から血がこぼれる。静かだった表情が苦痛に歪んで、呼吸が浅く、早
くなった。
「治ったの?」
「応急処置程度にはなんとか。とにかく、ちゃんと手当できる場所に運ばない
と命の保証はできない」
「病院直行?  それとも第8寮に戻る?」
「第8寮に戻りましょう」
  リョウはためらいもなくそう言い切った。
「え……病院じゃないの?」
「病院だとヒールが使えない。大体、武装兵の格好した重体の患者運び込んで
蘇生して下さいってのがムリよ。見殺しにされる可能性がある」
「わかった。唯美……」
  翔はいつもの癖でそう声をかけたのだろう。
  しかし、唯美はナイフを持ったまま、凍りついたように動こうとしない。
「急いで!」
「おい、誰かリターンボール持ってないのか?」
  ぐったりとした封隼を肩に担いだ信也が辺りを見回す。
「あ、オレ持ってる」
「じゃ、早く使ってくれ」
  シエルがポケットから戻り玉を取り出す。
  それが地面に投げ付けられ、放った白い光が視界を埋め尽くすのを、絵麻は
馬鹿みたいに黙ってながめていた。
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