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  翔がゴミを始末するのを見届けてから、絵麻は買い物にでかけた。
「お肉と春雨、干ししいたけ、にんじん、ねぎ……」
  商品棚を見て回る。
  買い物はカノンがいてくれたときも、今も変わらず楽しかった。
「あとは塩こしょう買い足して終わりかな」
  呟いたとき、目の前のガラス戸がコツコツと鳴った。
「?」
  見上げた向こう側に、リョウが立っている。
  明るさを装っていたが、紫色の瞳は真剣な光を宿していて。
  絵麻は慌てて会計を済ませると店の外に出た。
「リョウ、どうしたの?」
「『仕事』だよ。中央東部の町が襲われそうなんだって」
  周りの視線を気にしてか、リョウは低めた声で一言、そう告げた。
「また?」
「うん。今度は中央東部で何かあったみたい。人数が多いほうがいいっていう
からあたしが絵麻を呼びに来たの」
「わかった」
「みんなはほとんど戻ってるみたいだってユーリが言ってた。戻ろう?」
「うん」
  絵麻は頷くと、リョウと並んで街頭を駆け出した。
(またカノンのような人が出るの?)
  あの時から消えない火傷痕のような不安に、絵麻の胸はじりじりと焦がされ
ていた。

  第8寮に戻ると、9人全員がリビングにそろっていた。
  翔と哉人がパソコンの前に座って何かのデータを見ている。不機嫌そうな唯
美の視線の先には、腕を押さえるようにして俯いた封隼の姿があった。
「中央東部、リンラオ地区。ここは人口が多いから誘導がやっかいだな」
「この地形なら、武装集団は十中八九、北の地形から攻めてくるんじゃないか
な。僕が指揮官ならそうするし」
「お前が言うんなら間違いはないだろう。で、どうする?」
「今回は住民の避難と武装集団の排除の同時進行だから、絵麻とリリィを下げ
て南への避難誘導に回ってもらう。後はペアでひたすら戦力をそいで。先鋒が
シエルと哉人。中央に僕、信也とリョウ、唯美は……」
  そこで翔はちらっと封隼に視線を走らせたが、すぐあきらめたようだった。
「唯美と封隼は単独で動いて。ひたすら排除してくれればいい」
「わかった。で、アタシは何をすればいいの?  いつものごとく、その戦場の
ど真ん中にアンタらを飛ばせば言いわけ?」
  唯美の声は金属を思わせ、いらだっているのは明らかだった。
  しかし、これは『仕事』である。
「封隼も、今はNONETの預かりだから戦闘には参加してもらう。いいな?」
  信也の言葉に、封隼は無言で頷いた。
「行くわよ?!」
  唯美の破れ鐘のような、乱雑な声。
  気がついた時には、絵麻は遊びに飽きた人形を投げ出すような乱雑さで瞬間
移動の次元から放り出されていた。

「……!」
  ぐらぐらと視界が揺れ、思わず額を押さえる。
  それは他のメンバーも同じだったらしく、それぞれ眉間にしわを寄せたり頭
を押さえたりしていた。
  けれど、自分の体調不良を訴えているヒマはない。ここは戦場なのだ。
  今は平静にみえる町だが、武装集団襲撃のニュースが伝わるたび、パニック
が潮騒のように押し寄せて来ている。
「いい?  絵麻とリリィは南の方に住民の人を誘導して。現地のPCには連絡
してあるから、すぐに応援が来る。できるね?」
「うん」
「僕らは武装集団を叩いて来るから。町の南側で落ち合おう」
  翔は言うと、少し心配そうな目で絵麻を見た。
  絵麻は笑ってみせる。
「わたしは大丈夫。みんな、頑張ってね。終わったら美味しい夕飯食べよう?」
「……こんな時でも『夕飯』か」
  何人かがあきれたように笑う。
「ま、お前らしくていいか。くれぐれも気をつけろよ」
「リリィと一緒にいるんだよ?」
  信也とリョウが2人に声をかけて、北の戦場へと駆け出して行く。
「おっと、オレたち先陣切らなきゃ」
  シエルと哉人が追い抜いて行き、残りの3人も後を追った。
「封隼、大丈夫かな……」
  心配した絵麻の肩をリリィが強く叩く。
  美しい碧色の目が、『自分のすることをやらなくちゃ』と告げていた。
「うん。わかってる」
  絵麻は言うと、彼女と連れ立って情報の錯乱している街へと向かった。
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