戻る | 進む | 目次

  市街地から少し外れた場所に、絵麻は茶色の紙袋をかかえて座り込んでいた。
「はあっ……」
  心臓がまだどきどきいっている。
  緊張で歩けなくなってしまったので、ここで休んでいたのだ。
  建物の陰の小さなスペースは、リリィが教えてくれた。
  2人で買い物にでかけた帰りなどはよくここに落ち着いて、買い物の内容な
どをメモでやりとりしあうのだった。
「そういえば、さっきコインやりっぱなしにしてきちゃった」
  サイフをのぞきこんだ絵麻は、コインが何種類かなくなっているのに気づい
た。
  確か金貨、銀貨、銅貨のどの種類も3枚ずつあったはずだが、金貨が2枚、
銀貨が1枚なくなっている。
「とってこなきゃ」
  絵麻が立ち上がりかけた時だった。
「そこのお客さん」
  ふいに、小さなスペースに人影がさした。
「え?」
  見ると、さっきレジにいた金髪の女の子が、夕方の風にエプロンドレスの裾
をなびかせながら立っている。
「忘れ物と落とし物だよ」
「?」
  落とし物はわかるが、忘れ物って?
「おつり、受け取るの忘れていったでしょ?」
  女の子はそう言うと、絵麻の手をひらかせて中にコインをおいた。
「あ……」
「10エオロー金貨なんて落としちゃだめよ。1カ月食べられる額じゃない」
  言って、女の子は笑顔をみせた。
「あの……ありがとう」
「いえいえ」
「どうして、ここにいるのがわかったの?」
「あなた、よくリリィと一緒にいる子でしょ?」
「リリィを知ってるの?」
「っていうか、第8寮の変わり者集団に買い物教えてもらってる女の子ってい
えば有名よ?」
「え?!」
  変わり者集団?(間違ってない気もするが)
  しかも『自分』が有名?!
  絵麻の顔色が変わったのを別の意味にとったのか、女の子は言葉を続ける。
「第8寮の存在自体、けっこう有名なのよね。PCの他の寮はワンルームのア
パートなのに、あそこだけ共同生活してるでしょ?」
「それは……」
  第8寮は『NONET』の本拠地だから。
  なんて言っちゃいけないので、絵麻は口をつぐんだ。
「1人増えたって話だったから、いったいどれだけ度胸のある奴が来たかと思っ
てみればすっごいお嬢さんじゃない」
「……お嬢さん?」
「だって、すごいおとなしくて可愛いし、買い物の仕方とか教わってるからこ
れはやんごとなき貴族のお嬢さんだよなってみんなが。でも金髪青眼じゃない
から中央の豪族の娘さんだったりするのかなって」
「貴族……豪族?」
  いったいいつの時代の話なんだ。
  そして、自分が可愛い?
「それは違うと思う……」
「中央の子でしょ?」
「うん」
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-