(10の次は30だったよね?! 30ってどれだっけ?! これ?!) 絵麻はとっさに、金色のコインの中でいちばん大きなものを出した。 「あの……これって10エオローなんだけど……」 「え?!」 案の定、間違ったらしい。 (30からはお札になるんだっけ?) 錯乱した頭で、絵麻はとりあえずつかんだ紙幣を出した。 「……これは50フェオ札。足りないよ」 「あれっ?!」 店員さんは呆れ顔である。 絵麻はすっかりパニックしてしまった。 「えっと、銅貨がフェオで、銀貨がエオーで……」 後ろに並んだ他の客たちも騒ぎ始める。 「えっと……えっと……あっ」 ガシャン! 手元が狂って、絵麻はサイフを店の床におっことしてしまった。 リンリーンと音がして、中に入ったコインが飛び出す。 その派手な音に店じゅうの注目が集まってしまった。 囁き交わす人々の視線。 (あ……) 「あの子でしょ? 深川結女の妹!」 「まあ。ホント地味な子じゃない。そう思わない?」 白くなっていた顔が青に変わる前に、レジの女の子の声が聞こえた。 「そこにのぞいてるお札ちょうだい。それで全部いけるから」 「あ……」 女の子は奇妙に冷静に、落としたサイフの口からのぞいていた紙幣を示した。 絵麻はあわててサイフをつかむと、紙幣を女の子に押し付ける。 そして、そのまま包み終わっていた買い物をつかむと、ばたばたと店を出て 行った。 「……」 女の子は一瞬、呆然となったのだが、渡された紙幣をレジの中にしまい、絵 麻が拾い忘れたコインを拾ってレジの横に置いた。 「次の方、おまたせしました」 少しの間、女の子は絵麻の走り出た戸口に視線をやっていたのだが、すぐに さっきと変わらない笑顔で次の客を誘導した。