戻る | 進む | 目次

3.終焉−平和姫と不和姫−

「青雷撃(ライトニング)!」
 何度目かの落雷の音が、玉座に響いた。
 パンドラが薄衣をはね上げて身をかわす。優雅な仕草は、天上の舞姫の
ようだった。
 断続的に襲う雷撃をかわし、隙をついて闇を放つ。
 翔はそれを避けなかった。電子の壁を呼び出して拡散させ、次の攻撃に
移った。
 その戦法は精神にかなりの負担をかけたが、そんなことより一刻も早く、
パンドラを倒したかった。
 だが、元々の差がある。加えて、パンドラは力を増している。
 翔は能力者としては最強に数えられるが、不和姫にはかなわない。
「アハハ、楽しいわね」
 パンドラが哄笑する。その手のひらに、みるみる闇の波動が集中する。
 放たれた重い波動を、翔はなんとか受け止めた。
「くっ……」
「翔!」
「絵麻は来ちゃダメだ!」
 駆け寄ってきそうな絵麻を、翔は鋭く制した。
 絵麻を戦わせたくない。させてしまえば、取り返しのつかないことにな
る。それだけは絶対に避けたかった。
「アンタ、そんなに平和姫を守りたいの?」
「当たり前だ」
 翔は短く返した。あまり長く口をきくと、意識がそがれそうだった。
 絵麻がいるから頑張れる。
 最初は利用するつもりだった。優しい事を言って、本当はそれだけだっ
た。
 でも、変わった。
 絵麻がいてくれるから、自分もここにいられる。過去に押しつぶされず、
今、ここにこうしていられる。
 だから、絵麻を失いたくない。
 翔はその一心で、指先に意識を集中した。
 青白い光。雷撃のエネルギーが集まり高まって……。

 ぱちん。

「え……?」
 集まっていたはずの雷撃エネルギーが拡散した。
 静電気がはじけるような音がして、光が消える。
 そこにあるのは見慣れた火傷の指と。自分のパワーストーン。
「なん……で……」
 呟いた次の瞬間、膝から力が抜けた。
 翔はその場に崩れ落ちた。
「……!」
 体が動かせなかった。
 頭が重い。指先の感覚がない。
 パワーストーン使用過多による廃人化現象。
 絵麻を調べていた時に見つけた言葉を、唐突に思い出した。
「翔っ!」
 絵麻が駆け寄ってくる。
 パンドラはすかさず、2人に向けて闇を放った。
「死になさい!」
「!」
 翔にはもう、防ぐ術はない。
 が、体に予想したような苦痛は走らなかった。
 絵麻が青金石(ラピスラズリ)を取り出し、防御壁を作り出していた。
「絵麻……!」
「ごめんね。翔。
 だけど、わたし、自分が守る力があるのに、翔を守れないなんて
嫌だよ」
 絵麻は静かに笑っていた。
『貴方の絵麻を想う気持ちが、絵麻を滅ぼす』
 エマイユの言葉が、痛みを伴って翔の胸によみがえる。
「こういうことか……」
 翔は初めて、心から人を呪った。
 わかっていたのだ。
 翔が、絵麻のために力を使って倒れることを。
 翔を守るために、絵麻が力を使うことを。
 無性に悔しかった。自分の無力が情けなかった。
「こういうことかっ!」
 翔の血を吐くような叫びがこだました。
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-