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 離れた回廊で。
 リリィはたった1人、メガイラと向かい合っていた。
「いい加減に認めなさい」
 メガイラの声は静寂そのものだった。
「認めてしまえば楽になります。貴方は、友人達のことが大嫌いなのでしょ
う?」
「違う……」
 リリィは首を振った。手にしていた氷の刃が、からんと音を立てて床に落
ちる。
「違うわ……そんなことない……」
 けれど、本当にそうなのか?
 リリィは絵麻に「大嫌い」と言ったことがある。それは絵麻の気をそぐた
めに言った言葉のはずだった。
 あれは、本心だったのではなかったか?
「友人たちも、貴方をどう思っているのでしょうね?」
 絵麻は自分の命をかけて助けてくれた。
 リョウも、アテネも助けてくれた。
 唯美は厳しい言葉だったが、本音で接してくれた。決して半端な同情や
好奇を寄せてくる事はなかった。
 だけど――それは、本心?
 リリィはただ友人達の優しさに甘えていた。傷ついた分、甘えてもいい
と思った。
 絵麻は、そんな自分をどう思っていたのだろう。
 友達。でも、最初からそうではなかった。絵麻は最初の頃、自分のこと
を拒絶していたのだ。目を合わせるだけで脅えて泣いていた。
 彼女に自分が何をしたんだろうと悩んだこともあった。少ししてから絵
麻は、リリィの美貌が姉を思い出させて怖かったのだと、教えてくれた。
 それは、本当のこと?
 絵麻に姉がいることと、その姉とトラブルがあったことはみんな知って
いる。知っているのだが、実際に見た人は1人もいない。
 そもそも、絵麻には本当に姉がいるのか?
 実の姉が妹に手をかけるなんてことがあるのだろうか?
 別の何かだったのではないか?
 絵麻は、本当に自分を友達だと思ってくれていたのだろうか?
「……」
 リリィは額を押さえた。
 絵麻は自分を助けてくれた。迎えに来てくれた。
 けれど、帰ってきた自分に「お帰り」とは一言も言ってくれなかった。
 絵麻はあの時、翔と一緒だった。その後もずっと翔と一緒だった。翔の
事だけを考えていた。
 前は3人でいたのに。3人一緒だったのに。
 心の中に、暗雲が広がっていく。
(嫌よ……こんなこと考えたくない!)
 リリィはその場に膝をつき、耳をふさいだ。
 けれど、声は内側から、リリィをくらいつくすように響いてくる。
 それがメガイラの手によるものだと気づく事は、今のリリィにはできな
かった。
 時が過ぎ、すっかり虚ろになったリリィに歩み寄ると、メガイラはささ
やいた。
「さあ、『平和姫』を殺しなさい」
 リリィは立ち上がった。
 碧色の目が、光を失って虚ろになっている。
「……絵麻」
 リリィは氷の刃を具現化させた。
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