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 信也はアレクトと対峙していた。
 剣と大鎌。ぶつかりあう耳障りな音が響く。
 大鎌を使うのには力がいる。重さがあるぶんだけ動きが制限されるはず
なのだが、アレクトはまるで自らの手の延長であるかのように、身長ほど
もある巨大な大鎌を自由自在に使いこなした。
 動きが互角なら、信也の方が不利だ。
 アレクトが振りかざしてきた大鎌を正面で受け止める。信じられない重
さに、がくんと足が傾いた。
「信也!」
 しかし、彼には奥の手があった。
 剣を支えながら、意識を半分だけ、アレクトの手先に集中させる。
「……!」
 アレクトの手に火がついた。とっさにアレクトが信也を振り払い、手を
振って火を消す。
「成程。パワーストーンか」
 アレクトは唇を歪めた。
「弱いな。全て焼きつくせるだろうに」
「焼き殺してやりたいよ」
 信也はアレクトをにらんだ。
 大鎌を受け止めていたから、意識を半分しか集中できなかった。そのせ
いで炎の威力は半減していた。
「しかし、厄介だ。なら……」
 アレクトは視線を、信也からリョウに向けた。
「お前からだ」
「!」
 アレクトは信也の横をすりぬけ、振りかざした大鎌を、死神のようにリョ
ウに向けて振り下ろした。
「リョウ!」
 しかし、彼女も伊達に戦いの中を生きていなかった。リョウは転がって
いた信也の剣の、深緑の鞘を持っていた。それで受け止めたのだ。
 信也が走りより、アレクトに向けて長刀を振り下ろす。アレクトは一瞬
早く身を翻し、大鎌を信也に向けた。
「このっ!」
 その後ろから、リョウが鞘を振り降ろす。
 頭部を殴られ、アレクトの表情が歪んだ。その隙をついて信也が剣を横
にはらい、アレクトの胸を切り裂いた。
「……っ」
 アレクトの動きが止まる。
「正也の仇!」
 信也は、アレクトの心臓を狙って剣を突き出した。
 アレクトは避けなかった。ずぶりと、胸に剣が刺さる。
 しかし、アレクトは何事もなかったように平然としていた。
「えっ」
 驚きで、信也の動きが止まる。
 アレクトはそこを見逃さなかった。素早い速さで、大鎌を振り上げた。
 赤いしぶきが飛び散る。信也は、自分の悲鳴を聞いた。
「信也!」
 下から上へ。体の正面を切り上げられた。
「……!」
 倒れた信也にリョウが駆け寄る。
「信也っ!!」
 リョウは倒れた幼馴染を、腕に抱きかかえた。
「バカ、死んだら嫌って言ったでしょ?!」
 ブレスレットをつけた手を傷口にかざして、意識を集中する。
「治療効(ヒール)!」
 淡い光が傷口を包み、癒していく。
 必死に能力を使うリョウに、アレクトが罵声を浴びせた。
「お前は、自分の守りたい奴だけ助けるんだな」
 リョウが凍りつく。
「そんな事……!」
「ないと言えるのか? お前はあの時、PC総帥を助けなかったな?
 こいつの双子の弟も、町の住人も助けてはやらなかったな?」
「……」
 能力を使う手が止まった。
 アレクトは正しい。自分は、救えた人を何度も見殺しにした。
「あたしは……」
 声が震える。
 と、その時、止まったままだったリョウの指先に、信也が自分の指先を
重ねた。
 重なる部分は僅かだったけれど、ひどく暖かかった。
 目を合わせると、彼は静かに頷いてくれた。
「あたし……万能じゃない。あたしは、すごく弱い」
 終わりの一瞬に、全てリセットできてしまう力を持っているけれど。
「だから、守りたいの。守れる時は、そのために全力を尽くす。それが弱
いあたしにできる、1つのことだよ」
「偽善だな」
 リョウはきつく目を閉じた。
「……それ以上言うな」
 目を開けた信也が、アレクトをにらむ。
 彼は立ち上がろうとした。が、切られた傷の痛みが邪魔をした。
「……っ」
「まだ動いちゃダメ!」
 リョウが信也を抑える。
「なんであいつ、心臓刺して動けるんだよ……」
 確かに左胸を刺したはずなのに。腕に感触が残っているのに。
 かつり。かつり。アレクトが近づいてくる。
 大鎌をかついだ黒い姿。それは死神そのものだった。
 信也は剣を支えにして立ち上がろうとした。
 しかし、アレクトが素早くその手に大鎌を振り下ろした。
「……!」
 手が吹き飛ばなかったのは、マスターの反射神経のおかげだった。ただ、
身代わりに剣が弾き飛ばされた。
 とっさに拾って、アレクトに突きつける。
 アレクトもまた、大鎌の勢力範囲に信也とリョウをとらえていた。
「……」
 アレクトが笑う。
 対照的に、信也は、悔しさに表情を歪めていた。
「信也……?」
 リョウはその時、ある事に気づいた。
 信也が剣を持っていた手は、左手。
 とっさに拾った時、利き手とは逆の手で持ってしまったのだ。
 扱いなれない手では、普段どおりには使えない。
 重い剣を持つだけで精一杯だった。慣れない手のひらが剣の重みにわな
なき、今にも落ちてしまいそう。
 落とせば、終わりだ。反撃はできない。
「……!」
 震える剣先の向こうに、アレクトの勝ち誇った笑いがあった。
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