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「! リリィ、やめ……!!」
 息が詰まる。首にまとわりつく感覚が絵麻の中の恐怖心を呼び起こす。
 どうして? ねえ、どうして?!
 澱み出す意識の中で、いつしかリリィと姉が重なっていた。
 リリィは自分の事を「大嫌いだった」と言った。
 でも、絵麻はそんな事ちっとも感じなかった。いつだってリリィは優しく
て、仲良くしてくれて。絵麻が落ち込んだらなぐさめてくれたし、心配もし
てくれた。
 嘘だったんだ。
 全部嘘だったんだ。
 リリィも、姉と同じ。表面の感情を取り繕い、裏で嘲笑っていたのだ。
 と、次の瞬間、リリィは絵麻から手を離して。マーチスをかばうと素早く
後退した。
 絵麻の目の前に雷撃が炸裂する。
「……っ! ごほっ……!!」
「絵麻!」
 その場に崩れ落ちて咳き込む絵麻を、駆けつけてきた翔が支える。
「絵麻、大丈夫?!」
 絵麻は答えられなかった。
 ただ、自分の体が震えていることだけがわかった。
「絵麻、ここにいてね」
 翔が絵麻を背後にかばい、リリィと対峙する。
「リリィ、何てこと絵麻にするんだよ?! 絵麻が首を触られるのが何より怖
い事、リリィはわかってるはずだろ?!」
「敵に情けかけてどうするのよ」
 リリィは嘲るように言うと、数枚の薄い氷の刃を具現化し、翔に向けて投
げた。
 翔は雷撃で撃ち落したのだが、その間にリリィは次の刃を投げていた。だ
んだん間隔がなくなり、刃が次々に翔の髪や服を掠めて行く。
「私は嫌になるほどよく知ってるのよ? 貴方の能力も、性格の甘さも」
「……」
 翔の表情が歪む。
 雷撃を使えば、一瞬で消し炭にできるだろう。けれど、翔にはそれができ
ない。
 リリィを殺すことなんてできない。
「リリィ、遊ぶのはそこまでだ」
 マーチスが言い、リリィの肩を抱く。
「男の方から殺せ。女には後で相手をしてもらう」
「仰せのままに」
 リリィは氷のナイフを具現化させると、一気に間合いを詰めた。
「リリィ……!」
 翔は防御壁を呼び出して、一撃目をなぎ払う。絵麻がいるのでその場を離
れられなかった。
「操られているのか?」
「まさか。これは私の意志よ」
 怜悧な微笑で答え、リリィは防御壁に切りつける。
 その衝撃に翔はたまらず目を閉じたが、次の瞬間、大きな雷撃がマーチス
を襲っていた。
 轟音と共に壁が崩れる。
「マーチス様!」
「お前の言うとおりだったな。これを持っていて助かった」
 マーチスの手には雷撃を地面に流す装置が握られていた。
「くっ……」
 弱点を知っている相手というのは戦いづらい。
 こちらも相手の弱点は知っているのだが、それを突くことができない。
「リリィ、早くそいつを殺れ!」
「はい」
「絵麻……逃げて」
 防御壁で何とか刃をかわしながら、翔は絵麻に言う。
 けれど、絵麻は動けなかった。
 首を絞められたショックと心労が重なり、動くことが出来なかった。
「絵麻……!」
 その時、リリィの刃が翔の防御壁と、核になっていたパワーストーンとを
弾き飛ばした。
 シャーレが床を滑り、壁にあたって止まる。
「しまっ……」
 動けなくなった翔の胸めがけて、リリィが刃を振りかぶる。
 その刃を、風が吹き飛ばした。
 階段の方を振り向くと、シエルが息をきらせて立っていた。後ろに哉人と
アテネの姿もある。
「シエル!」
「お前ら……何やってんだよ」
 シエルの表情も歪んでいた。
「何でお前らがやりあってんだよ」
「相変わらず男をくわえこむのが上手いな、リリィ」
 マーチスの言葉に、リリィが唇をつり上げて笑う。
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