その後、信也とリョウは即行で病院送りになった。 リョウは脱走をさんざん怒られて点滴を追加された。信也に至っては日本刀 での切り傷と出血が酷かったため、手術台送りにまで事態は発展してしまった。 で、現在。2人は仲良く枕を並べて入院している。 「信也」 「……何?」 眠っていた信也は、リョウからの呼びかけに目を覚ました。 「頼りすぎててごめんね」 「……どうして」 リョウの目は、泣きすぎて真っ赤に腫れあがってしまっている。大切な幼な じみを2度失うことになったのだから当然か。 「あたし、全然知らなかった。信也と正也にそんな事があったなんて」 「話さなかったからな」 「知らないで、信也に全体重あずけてよっかかってた。自分だけ、楽してた」 言わなくても痛みを共有できてると思っていた。けれど、違っていた。 信也はもっと苦しかったのに。 「今更どうにかなる問題じゃないけど……本当にごめん」 「いいさ」 信也は窓の外に視線を向けた。 さっき見舞いに来た年少組メンバーが、窓を開けていってくれた。春の訪れ を感じさせるやわらかい風がカーテンを揺らしている。 その向こう側に、青い空が見えた。 「ツラくなかったっていったら嘘になるけど、俺、寝ればツラいの忘れちゃう からな」 「あのね」 「いつか、このツラいのも忘れるのかな……俺、双子の弟を2回も死なせちまっ たよ」 信也のこげ茶の瞳が、遠く空を見ている。 おそらく、弟を追っているのだろう。 「大丈夫だよ。絵麻が浄化してくれたじゃない。 今頃きっと、おじさんやおばさんや、勇也や真也に会えてるよ」 「……そうだといい」 信也は言うと、寝返りをうってリョウに背を向けた。 一瞬、こげ茶色の瞳が光っていたように見えたのは、錯覚だったのだろうか? その日の夕方、絵麻は洗濯物と差し入れを持って病室を訪れた。 「はい、こっちが信也ので、そっちがリョウね」 「ありがとね」 「回復は順調?」 「おかげ様で。あたしのが早く治りそうだから、信也にはヒールかけるわ」 「無茶するなって」 絵麻が剥いたリンゴを食べながら、信也が笑う。 その笑みは、どこか力がない。 この一件でいちばん傷ついたのは信也なのだから当然か。 「ねえ、信也」 「何?」 絵麻は持ってきた分厚い本を、信也のベッドに広げた。 「……何これ」 「生物の本。翔に借りてきてもらった」 絵麻は難しい表情で、必死にページを繰っている。読めるようになったとは いえ、ガイア文字を読むのが苦手な絵麻はめったに自分から本を読もうとはし ない。 「あった。ここだ」 絵麻は生物の発生らしい写真のついたページを示した。 「あのね、双子って同一人物なんだって」 「……」 「信也と正也さんは双子でしょ? だから、正也さんは生きてるんだよ。リョ ウの隣にいるのも、信也だけど正也さんなんだよ。今でも3人一緒なんだよ」 一生懸命、たどたどしく文章を読みながら、絵麻は説明する。 「……ダメ?」 黙ってしまったことを否定ととらえたのか。絵麻が不安そうな顔で信也を覗 き込む。 「んー?」 信也はのんびりとした笑顔だ。 「それは、いいな」 「本当に?」 「だって、ずっと正也といられるってことだろ?」 彼は言うと、体を仰向けにベッドに倒した。 途端にうえっと顔をしかめる。傷口が痛んだらしい。 「大事にしなさいよ」 苦笑まじりでリョウが言う。 「そうだな」 信也はそう言うと、ころんと寝返りをうってベッドに伏せてしまった。 そうすると、表情が絵麻の側からは見えなくなる。 「……絵麻」 「?」 「ありがとう」 その声は、いつもの和やかな彼のものだった。