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 リョウは病院に入院することになった。
 NONETで誰かがケガをした場合、すぐにリョウが能力で治してくれる。
能力を使わずともリョウは普通の手当てもできるので、基本的に病院の世話に
はならない。
 ただ、治療者であるリョウ本人がケガを負った場合は、能力が使えないため
簡単に回復することができないのだ。
「危険な状態です」
 医者はそう断言した。
 リョウは胸を真一文字に切り裂かれていた。心臓まで達する深さはなかった
のだが、それでも胸の重要な動脈が何ヶ所か切られてしまった。
 今、リョウは意識不明で病院で手当てを受けている。
 蒼白な顔で昏々と眠り続けるリョウの側に付き添っているのは、信也ではな
くリリィだった。
 信也は、警察部で取調べを受けていた。

「秋本。いい加減に認めたらどうだ?」
 壮年の担当取調官が、いらいらとした調子で言う。
「リョウの事を切ってなんかいない!」
「お前は被害者と部屋に2人きりで、部屋には鍵がかかっていた。凶器の日本
刀はお前のもので、目の前に転がってた。これでどう言い逃れするんだ?」
 状況は信也に不利すぎた。
 リョウを病院に運ばなければ、事を荒立てずNONETの中だけで解決する
ことは可能だっただろう。
 しかし、彼女をNONETの中でだけ治療するのは無理だった。PC付属病
院に担ぎ込んで一命は取り留めさせたものの、傷を負った経緯を説明しないわ
けにはいかなかった。
 こればかりは、いくら翔が悩んでも警察部をごまかせる方法がなかったので
ある。
「だから、俺はリョウの事切ってなんかいないんだって!」
「素直に認めろ! 人を切るのが楽しかったんだろう? 楽しさがどんどんエ
スカレートして、身近な人にまで及んだんだろう?」
「それは……」
「それは?」
「夢遊病、みたいなものなのかもしれない。俺は忘れっぽいから、知らないう
ちに人を傷つけて、それを忘れてしまっているだけなのかも……」
「そんな言い訳が通用すると思ってるのか!」
 壮年の取調官は怒鳴ると、記録を取っていた若い取調官に言いつけて信也を
拘留施設へ入れた。
 鉄柵の扉。鉄格子のはめられた窓。家具は固いベッドのみ。
 そのベッドに座り込んで、信也は考えた。
 昨日のリョウのぬくもり……それにつつまれている時は安心できた。自分は
犯罪なんかしていないんだと、自信を持って言えた。
 けれど、リョウは凶刃に倒れ、今も意識が戻らないのだという。
 リョウを失ってしまったら。
 そう考えると、歯が鳴りそうなくらいの寒気に襲われる。
 彼女がいたから生きてこられた。弟が愛した彼女を守り支えることで、自分 
も赦される気がした。
 けれど……。
 信也は鉄格子のはまった窓に視線をやる。
 こげ茶色の瞳が、射す様に自分を見返してくる。
 と、その自分の口元が、ずる賢そうに歪んだ。
「よく言うよ」
「……え?」
 窓に映った信也が、口を利いた。
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