その日、男はほくほく顔で家路についていた。 彼のその表情の理由を端的に言ってしまうなら、給料日だったのだ。 PCに勤務している彼は定期的に収入が得られる。内戦下の国でこれがどん なに貴重なことか。 彼は家で自分の帰りを待っているであろう妻と、3歳になったばかりの娘に 思いをはせた。 家に帰り、いつもより少し贅沢な夕飯を食べる。そして今日一日の出来事を 話し合い、穏やかに眠りにつく。 そう。いつもの一日の終りのはずだった。 「ただい――」 男は声と共に、自宅のドアを開けた。 その先に待っていたのは、無残な光景だった。 「……え?」 夕食が置かれているべきテーブルがひっくり返っている。 椅子も、食器棚も。全ての家具がなぎ倒されている。 そんな中に、妻と娘が折り重なるように倒れていた。 「おいっ!」 慌てて、男は妻に駆け寄ると助け起こした。 手にべったりと赤い血がつく。 「あな……た……」 「何があったんだ?!」 その時、男の後ろで影が動いた。 190センチ近い長身の影だ。影はその手に、鮮血のしたたる日本刀をさげ ている。 「答えてくれ! おいっ!」 必死に妻にすがる男めがけて、血まみれの日本刀が振り下ろされる――。