その日の夕方。 絵麻はくるくるとせわしなく動いていた。買い物は買って終りじゃない。所 定の位置にちゃんと物を収めなければいけない。 「絵麻ー。こっちの缶詰は?」 「それは左の3番目の棚ー」 「印刷用紙の束、誰か間違って持って行ってないか?」 「え? リビングが3束、僕が4束、哉人が3束でしょ?」 「信也、切り傷の薬どこにやったのさ?」 「えーっと……あっちの袋の底じゃなかった?」 誰もが忙しく動く中で、絵麻は夕ご飯も作らないといけない。文字通り目の 回るように忙しい日になってしまった。 夕ご飯が終わって、片付けも終わって。買ってきた物をゆっくりと楽しめる 時間になったのは、随分と遅い時間だった。 「絵麻、何買ったの?」 「キッチンまわりの道具。スライサーとか、ジューサーとか。リリィは?」 話をふられたリリィは、手元の袋から綺麗な刺繍糸を何本も出してみせた。 「わあっ。キレイキレイ!」 「アテネは?」 「お兄ちゃんと一緒にケーキ食べて、これ買ってもらっちゃった!」 アテネがにこにこ笑いながら出してきたのは、白い毛並みに蒼の瞳のテディ ベアだった。 「お前こんなもの売ってる店に入ったのか……」 「……ほっとけ」 「信也たちは?」 「ん? 新しいピアス買ったよ」 「リョウ、あんなに持ってるのに……」 「趣味よ、趣味。唯美たちはどうなの?」 「これ」 唯美は隣に座っていた弟の耳をぎゅーっと引っ張った。 そこには真新しい銀の2つ組になったピアスが光っている。 「唯美姉さん……痛い」 「短時間だったけど、みんなそれぞれ楽しんだのね」 「哉人は?」 「ん?」 相変わらずキーボードを叩いていた哉人が、話をふられて顔をあげる。 「特に何も買わなかった。その辺をぶらついてただけ」 「そうなの? 何かもったいないね」 「そうでもない」 哉人の横顔に、いつもの苛立った様子や、張り詰めた様子はなかった。 そして、彼の胸には錆びた銀十字のチョーカーがさがっていた。