9人が走っていったのは、駅から10分ほどの列車置き場だった。 「……あった」 廃棄処分となった列車に埋もれるようにして、それはあった。 直径は2メートル近いだろうか。そのくらい大きな砲弾だ。実物でこれだけ の物を見るのは絵麻は初めてのことになる。 「……」 呆然となる絵麻の横で、翔も青い顔をしていた。 「翔、どうやって解除するんだ?」 「……」 「おい、翔!」 「……あ。何だっけ」 「解除方法」 「そうだ。本体は大きいんだけど、制御機関はわりと小型に作ったから……こ の線とこの線とこの線をまとめて管理してる箇所があって」 翔の火傷の手が、器用に砲弾の後ろの部分を開けて配線を取り出していく。 が、その手がぴたりと止まって。 「……翔? どうしたの?」 「テンキーがロックされてる」 「それって、どういうこと?」 「パスワードがないと解除できないってこと」 「……」 全員が沈黙した。 「ど、どうするの……?」 「そのまんま解体しちまえよ、翔」 「無理だよ。敵に構造がバレないように解体途中で爆発する仕掛けになってる から」 「じゃあ、パスワードは?」 「わからない。仕掛けた人だけが設定できるようになってる……」 その時、くすくすと楽しそうな笑い声がした。 「おっかしーの。大人がそろって困った顔」 いつの間にか、砲弾の上に黒衣の軍服を着た子供が座っていた。 額には黒水晶。黄色の髪をお団子に結わえた、そんな子供。 ぞくりと、絵麻の背筋に悪寒が走る。 この前カノンに化け、絵麻を武装集団領に拉致した張本人が目の前の子供だっ た。 「0階級……」 「こんにちはー☆」 子供が無邪気な笑顔を9人に向ける。 「誰だ?!」 「ティッシーは、ティッシー! 姫に血の花あげに来たの!」 赤く笑う口が、一瞬耳元までにいっと裂けて。 「中央首都の人間の血の花」 こいつは、敵だ……! 瞬時にリリィが氷の刃を具現化してティシポネに切りかかる。が、僅かに早 くティシポネはそれを避けていた。 「あはははー。遅いよっ」 「なら、これでどうだ?!」 シエルが風を指先に集めたのだが、ティシポネはにんまりとして。 「いいの? そんなことしていいの? あんまり暴れちゃうと、爆弾どっかー んだよ?」 「げっ」 慌ててシエルは風をほどく。その間に、ティシポネは姿をくらましていた。 「……逃げられた」 「俺たちって、ひょっとして手玉にとられてないか?」 「で、どうする?」 「ねえ、翔ならパスワード解除できるんじゃないの?」 絵麻は翔を見たのだが、翔は青い顔で首を振った。 「何桁に設定されたのかもわからない。ミニコンで接続して一応やってはみる けど、僕のワークスペースじゃ限界があるよ。これ、哉人の専門分野だもん」 「……哉人?!」 「機械やコンピューターの部品を組んで作るのは僕の担当だし、得意だよ。だ けど、作られたネットワークに侵入することやパスワードを解除するのは、僕 より哉人の方が数段上手なんだ」 言われれば、哉人はだいたいパソコンの前でキーボードを叩いている。蒼い 瞳を、ディスプレイの反射で水色に染めて。 「だったら、哉人を探してこようよ! わたし行って来る!」 「こらっ」 走り出そうとした絵麻の襟首を、信也がつかんで止めた。 「離してよ、信也。時間なくなっちゃうよ。みんな死んじゃうよ!」 「わかるけど。だからって何も考えずに走り出すのは絵麻の悪い癖だろ。何度 迷子になった?」 「……」 「ま、俺も回数覚えてないんだけどな」 「信也、そこにボケはいらないから」 「ともかく。翔、時間内に解除できるか?」 「……4割ってところ。僕のミニコンじゃ限界がある」 言いつつも、翔はポケットからミニコンを出してせわしなくキーを叩いてい た。 ミニコンというのは翔が自分で作ったポケットに入ってしまうサイズのコン ピューターである。ディスクを入れ替えることで複数の機能を持たせる事がで き、ヒマな時に翔はディスクを入れ替えてゲームをやっている。 「じゃ、またあのガキが襲ってくると困るから、リリィと絵麻はここに残って。 後のメンバーで哉人を探そう」 「分担は?」 「俺とリョウが東回りに探すから、シエルとアテネは西回りで頼む。唯美と封 隼は悪いけど、能力でいろんな場所に飛んでみてくれ」 「わかった」 「了解」 言って、唯美と封隼がその場から消える。続いて信也とリョウも走り出して いった。 「アテネ、オレらも行くぞ」 「うん…………あ」 アテネは頷きかけたのだが、ふいに耳を押さえた。 「アテネ?」 「見つけた」 「え?」 「ポプラの木が教えてくれてる。今、哉人くんが前を通っていったって」