3.刻まれた証 「哉人っ!!」 呼んでも、彼が帰ってくるはずはなくて。 彼の特徴的なコーラル・シーのバンダナが人ごみに消えるのを、9人は黙っ て見ていた。 「ちか……」 「いない奴を呼んでも仕方ないだろ。今いるメンバーで何とかするぞ」 追いかけようとした絵麻の腕を、信也が引っ張る。 「でもっ」 「でもも何もない。今やれることをやるしかないだろ」 「……で、どうするんだ?」 「探すしかない」 「探すって……どうやって?」 その場に沈黙が下りる。 「唯美の瞬間移動は?」 「あ、ダメ。あれは対象の場所が明確じゃないと使えないの」 「他に能力……能力……」 「そうだ……アテネ」 「え?」 突然名前を呼ばれて、アテネが不思議そうに顔を上げた。 「植物の声……聞こえない?」 「あ、そっか」 アテネは翡翠と同調して、植物を操る珍しいケースの能力者である。絵麻ほ ど珍しくはないのだが、それでもレアなケースらしい。 アテネはさっき落としたいびつな形の木片を取り出すと、祈るように額に押 し当てた。 ふわりと空気が揺れる。アテネの体が、ぼんやりと翡翠色の光をまとう。 ぎゅっと、アテネの表情が歪んだ。 「アテネ?」 横で妹を見守っていたシエルが心配そうに聞く。 「悲鳴が聞こえるよ……ここじゃ枝が伸ばせない。種を風に運んでもらうこと もできないって」 「他には?」 「いっぱいいっぱい、ただ悲鳴が聞こえる……あ、あの木倒れたっ!」 悲痛な目で、アテネが顔を覆う。 「アテネ……」 「木も、草も、花も倒れたよ……大きなものが引きずられてきたから。カチ、 カチって音が聞こえる……列車が通り過ぎる音……」 「……そこだ」