買い物に行くと決めた日は、とてもいい天気だった。
「こういうのって、何か嬉しいよね」
外出支度をしながら、絵麻がリリィに声をかける。
「行楽日和だよね。バスに乗って電車に乗って♪」
アテネも楽しそうに走り回っていたのだが。
「バスも電車も乗らないわよ?」
支度が終わったらしく、アテネが走り回る玄関先に出ていたリョウがあっさ
りと言った。
「え?」
これには絵麻も思わず声をあげてしまう。
「乗らないの?」
「10人分バス代と電車代払うの勿体ないでしょう」
「えー?」
一方で、信也、シエル、封隼といった面々が玄関ホールの隅でにらみあって
いた。
「言っとくけど、マジで勝負行くからな」
「こっちも、譲らないからな」
「……」
全員が真剣な面持ちで、相手をにらみつける。
「?」
絵麻が覗き込むと。
「せーのっ。ジャンケンポンッ!!」
結果はシエルがパーで、後の2人がチョキ。シエルの完敗だった。
「あああっ……」
がっくりとうなだれるシエル。
「……何してたの?」
「え? 何だっけ」
「誰がどこの荷物持ちするか、だよ」
「そうそう。食料品は重くて多そうだから、じゃんけんに負けた奴がやろうっ
て話」
翔と哉人は機械系等のパーツを見に行く事が決まっている。これといった専
門分野のない男子3人が荷物持ちに回されたので、配分を決めていたらしい。
「勘弁してくれよ……オレ、はっきり言うとそんなに多く持てないんだぜ?」
シエルは肩をすくめて、自分の片方しかない腕を広げて見せた。
「あ、そっか」
「何? 代わってくれんの?」
「食料品は唯美が来てくれるから大丈夫だよ。唯美なら、重くなったらすぐテ
レポートできるでしょ?」
「げっ。唯美なのかよっ?!」
ふたたびげんなりするシエルの頭部に、唯美の肘鉄が決まった。シエルがそ
の場に崩れ落ちる。
「唯美……」
「この可愛い隼唯美ちゃんに向かってそんなこというのは5万年早いっ!」
「支度できた?」
「うん。可愛いっしょ?」
ボトムは普段着ているダークローズのセパレートなのだが、上に着ているの
は袖のたっぷりした、白のニットのカーディガンだった。帽子で髪を上げてい
るのも普段どおりだが、よく似合っている。
「可愛い。買ったの?」
「こういう時くらいオシャレもしたいさ。年頃だしね」
「ねーっ」
「アテネも! アテネも可愛い?」
「可愛いよっ」
絵麻は自分よりちょっと小柄なアテネを腕の中に抱きしめた。
そんなスキンシップを、苦笑いで見ているリョウ。呆れ顔になっている男子
3人。
「お待たせ。こっちも準備できたよ」
買い物のリストを作っていて遅れていた翔と信也がリビングから出てきた。
「2の4の5の8……1人足りなくないか?」
「アンタ、その数え方おかしいって……あ、哉人がいない」
その時、階段が鳴って哉人がおりて来た。
「あ、ちか……」
視線を向けた絵麻だったが、その視線がかちんこちんに固まってしまう。
「・・・」
全員の目が点になる。
哉人は、ごつい真っ黒なサングラスをかけていたのだ。
絵麻の中にとっさに、姉がゲスト出演していたとあるお昼のバラエティショ
ーの司会の顔が浮かんだ。慌ててぶんぶんと振り払う。
「哉人?!」
「何やってんだ? 似合ってないぞ?」
「煩いっ!」
階段からおりたところをわっと絵麻とリリィ以外の全員に囲まれ、哉人が叫
ぶ。
「中央の陽射しは目に痛いんだよ」
「その理屈はわかるけど……あんた、いちばん目の色淡いし」
「? 淡いとどうなるの?」
「絵麻は中央人だから目の色素も肌の色素も濃いでしょ? そうすると明るい
陽射しの下とかは特に大丈夫なんだけど、暗い中で見えないの。逆にリリィと
か哉人とかは目の色が淡いから、明るい陽射しは目にまぶしすぎちゃうの。逆
に暗い中でよく見えるんだけど」
「そうなんだ……」
だからとはいえ、顔の半分を覆ってしまうサングラスはかなり似合ってなかっ
たのだが。
「ほら、さっさと行って帰ってくるぞ。唯美」
「りょーかい。みんな集まって」
唯美がカーディガンのポケットから水晶を取り出し、全員を一ヶ所に集める。
ほどなくして、いつもの光が全員を中央首都へと連れ去った。