「あれ、新しいタオルここに入ってなかった?」 その頃、第8寮で。 シャワーを浴びて来たらしい明宝翔がリビングの棚を開けたのだが、そこに 買い置きされていたはずのタオルは入っていなかった。 「お前、水滴飛ぶからあんまり歩き回るなよ」 自分のノートパソコンをリビングで接続していた琴南哉人が煩わしそうに蒼 い目をすがめる。 「えー?」 「絵麻がどこかにしまう場所変えたとかじゃなくって?」 「ううん。絵麻はタオルとか歯磨き粉とか全部ここに入れてたよ。ね、リリィ」 話を振られたリリィ=アイルランドがのぞき込んでみるが、その棚はからっ ぽだった。 「ってことは、買い置きなくなったのかな」 「絵麻って古いタオルは雑巾にして使っちゃうもんね」 「……ネットオークションに出てないのかよ」 「? どうしたの?」 哉人はディスプレイからの反射で水色に光る瞳をあげた。 「ここじゃ手に入らないパソコンの部品。普段はオークションで手に入れるん だけど、急ぎの時に限って出てないんだ」 「それじゃ、たいへんでしょう」 「中央に出れば売ってるんだけどな」 その時、ぱたぱたと足音がして、アテネ=アルパインが入って来た。 「リョウさんー。封隼くんがケガしたのー」 「また?!」 部屋の片隅にいたリョウ=ブライスが立ち上がる。 「で、今度は何針縫えばいいの?」 「……打ち身だよ」 肩を押さえて、封隼が入ってくる。 「診せて。……ああ、この程度なら薬つけとけばすぐ治るわ」 リョウは棚から薬箱を取り出したのだが。 「……あれ? 打ち身の薬がなくなってる」 「誰かが持ってったとか?」 「そのなくなってるじゃなくて」 リョウは使い切られたチューブ薬を振って見せた。 「あ、その薬かなりよく効く奴なのに」 「みんなして使うからなくなっちゃったのね。これ、医局で注文してもらわな いと手に入らないし」 「そうなんだ」 「ただいまー」 その時、絵麻が買い物から帰って来た。 「お帰り」 「絵麻、新しいタオル知らない?」 「え? その棚の中に入ってない?」 絵麻は買い物の袋を台所においてから、さっき翔が探したばかりの棚を示し た。 「いや、ないんだよ」 「そういえば、買い置きだいぶ少なくなってたっけ……また買ってこなきゃ」 「なんか、ないないづくしだな」 そう言ったのはシエル=アルパインである。 「?」 シエルは絵麻に、今までの話を手短に語って聞かせた。 それを聞いた絵麻は、はっと思い当たって。 「そうだ。中央首都!」 「中央首都?」 「雑貨屋のおじさんにきいたの。中央首都には物がいっぱいそろってるって」 「リーガルシティはガイアでいちばん大きな街だから、確かに何でもあるよ。 僕は買い物するより図書館に行きたいところだけど」 「図書館? ここのじゃダメなの?」 「中央首都の図書館はここの10倍、いや、100倍は蔵書があるんだから!」 深い茶色の目をきらきらさせて、翔が力説する。この人の学者モードを止め られる人は、実はNONETにはいない。 「新しい部品のパーツも欲しいんだっけ。中央都ならそろうよね」 「あ、あたしも中央首都で薬買いたい」 「哉人がさっき言ってた奴も、中央首都なら買えるんじゃないのか?」 「じゃ、何? NONET全員で買いだし?」