明るく、暖かな日差しの中。わたしは青年の隣に座っている。 黒髪の、長身の青年だ。 名前を呼ぶと、大好きな笑顔で振り返ってくれた。 「エマ」 名前を呼ばれて、抱き寄せられる。 わたしは青年の肩に頭を乗せて、ずっと春の花を眺めていた。 青年の指がわたしの肩までの髪を梳く。幸せな春の午後。 「ずっと一緒にいてね?」 「ああ。側にいるよ」 その時だった。 「雷牙兄っ!」 後ろから、青年を呼ぶ声がした。 振り返ったところにいたのは、青年によく似た少年。軍服を着ている。 「氷牙」 「すぐに来てくれ。武装集団が」 「わかった」 青年――雷牙の手が、わたしから離される。 行っちゃう……。 「雷牙」 「心配するなって」 雷牙の大きな手が、わたしの髪をくしゃくしゃにする。 「でも、武装集団のところに行くんでしょう? そうしたら」 「大丈夫」 雷牙が、わたしを抱きしめてくれる。あったかい腕。 「エマ。必ず戻ってくるから」 カナラズ、モドッテクルカラ……。 戻って来てはくれなかった。 わたしは1人、非難の矢面に立たされる。 「お前のせいだっ!」 「消えちまえ! この淫乱女!!」 街の広場に作られた処刑場。磔の十字架。 わたしの手足は、そこに縛られていて身動きできない。 怒り狂った民衆が、足元の石をわたしに投げ付ける。 血が流れても、ぬぐうことさえ許されない。 やがて、執行人たちが現れた。 ずるそうな声で罪状を読み上げ、処罰を言い渡す。 「……よって、被告【罪の女】を、火あぶりの刑に処す」 わあっと、会場がわいた。 わたしの足元に薪が積み上げられる。火を点けられる。 わたしの体が、足元から燃え始める。 熱い。 熱い。 熱い。 悲鳴を上げて身悶えるわたしを、会場中が笑ってみている。 どうして笑ってるの? どうして笑えるの? わたしのことなんか何も知らないくせに。 わたしが無実だってこと、わかってもくれないくせに! 「呪ってやる!」 火にあぶられながら、わたしは叫ぶ。 「軽蔑してやる! 蔑んでやる! 恨んでやる!」 焼けた喉で、わたしは罵る。 こんな世界、滅んでしまえばいい!! ねえ……貴方。 どうして、戻って来てくれなかったの……? 「!」 絵麻はびくっとして目を覚ました。全身が汗でぐしゃぐしゃになっている。 「火あぶりの夢……?」 最初は、やわらかくて優しい夢をみていた。けれど、唐突に夢の空気が変わっ た。 最初の夢は、前にも見たことがある。翔とよく似た青年の名前が「雷牙」と いうのは、今日初めて知ったことだが。 ただ、次の夢は知らない。ひどく悲しく、それでいて憎悪に満ちた夢だ。 夢を見るようになってから……正確にはついこの前、武装集団領に拉致され てからだが、思うようになったことがある。 自分は、夢を通じて誰かの記憶を覗いているのではないか、と。 では……火あぶりにされた、あの悲しく憎悪に満ちた人物は一体誰なのだろ う。